仕事の依頼
「盛り上がるのは結構ですが、続きは私が帰った後にでもしてくれます?」
そうだった。上司いたんだった。
ハッとしたように目を向けると、呆れ返ったような視線がビシバシと突き刺さって来る。
霜月の肩を緩く押し、離れる様に
しかし側からは離れたくないのか、横にぴったりと張り付く様に並ぶと、上司に向かって
「ああ、仕事は今夜からお願いします。難易度の低いものにはしておきましたが、最低限の知識と
……今夜?
上司いま、今夜からって言った?
聞き間違えたかとも思ったが、この男のことだ。
おそらく間違いなどではないだろう。
しかしいくら何でも早すぎる。
今夜からって、まるで仕事を事前に入れでもしてたかのような……。
なるほど、そういうことか。
そういう事なんだな?
上司貴様、初めからそのつもりで……。
目は口ほどに物を言う。
たとえ何も言わずとも、私の言わんとする事を、上司は理解したはずだ。
でなければ、上司の顔にあんな笑みが浮かんでいる理由がつかない。
第一、もし私が今日中に
「睦月。先ほども言った通り、私は仕事が押しています。後のことは二人で話し合ってください」
さらりと名前を呼ばれたことに気を取られ、言い返す言葉が遅れてしまった。
「霜月、名前の方はこのあと死局に届けておきます。少し早いですが、今からはその名を使うと良いでしょう」
霜月は上司に名前を呼ばれたことで、複雑そうな表情を浮かべている。
上司はそのままベランダに続く窓を開けると、「今日は天気が良いですね」などと呟きながら外へ出ていく。
ちなみに今朝の天気予報では、笑顔の
ベランダに吹く風が上司の服の
不意に窓から強い風が吹き込み、思わず目を閉じた私の耳に、「ああ、それから」と話す上司の声が聞こえた。
まだ何かあるのかと疑う私へ、その声は存外はっきりと響く。
「言ったじゃないですか。最初から拒否権なんてものは無いと」
薄く目を開けた私が最後に見たものは、
そんな光景だった。
……誰だったっけ、13階から帰すのはモラルがないとか言ってたやつ。
◆ ◆ ◇ ◇
あんなに強い風が吹き込んだ割に、部屋はいつもと変わらない日常を保っている。
まるで、今あった出来事が全て夢だったと言われた方がよほど納得出来そうな有様だ。
けれど、私の真横にはもれなくその全てをひっくり返せるほどの
「えーと、霜月……さん。ちょっといいかな?」
さっきは雰囲気で呼び捨てにしていたが、霜月はこれから一緒に仕事をする言わば
彼が幾つなのかは知らないが、死神歴で言うなら間違いなく先輩と後輩。
いきなり呼び捨てにするのはいかがなものか。
私なりに考えて呼んだつもりだったが、霜月からすると気に入らなかったらしい。
少し上から見下ろしてくる霜月の瞳には、不満がありありと詰め込まれていた。
「
いや、全然オッケーです。
ちょっとだけ傾けられた首と、顔面のパワーとが相まって、破壊力が桁違いになっている。
どこぞの大佐みたいに、「目があぁぁ」ってなりそう。
「えっと、じゃあ……霜月」
名前を呼ぶだけなのに妙に照れ臭い感じになってしまった。
名前を呼ばれた霜月も、少し照れくさそうに顔を緩めている。
目は無事にご
私の頭の中がこうなのは一旦置いておくとして、今は何かと話すことが山積みの状態だ。
溶けきった空気を
気を取り直すように霜月を見つめると、霜月もまた表情を引き締め、真っ直ぐこちらを見返してくれる。
霜月の静かで
「そういえば霜月。何で目の色が変わってるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます