第15話 魔の手


 王子が「探りを入れる」と言ったその日の放課後――。


「ねぇ」

「?」


 突然声をかけられ振り返ると、そこには聖女。ミキアが一人仁王立ちしていた。


 ――珍しい。


 いつもであれば放課後はグループの男性とお茶会か誰か一人と出かけているはずだ。


「あんた、いい気になってんじゃないわよ?」

「どういう事でしょう?」


 多分、彼女は私と王子が仲良くしているのが気に入らないのだろう。それは何となく分かる。


 ――でもなぁ。


 それで「優越感があるか」と聞かれると、正直微妙なところだ。


 いくら国王陛下が公認されているとは言え、やはり納得出来ない人はいるワケで。特に貴族の令嬢で多いのだけど。


 ――ただ目に見えてのイジメとかないからそう見えているだけとしか。


 でも、そういった事がないのは単純に王子が私から離れないからである。


 ――今日は王子に用事があったけど、いつもは送り迎えもしてくれているし。


 当初はかなり申し訳ない気持ちもあり、丁重に断るつもりだった。


 だけど「いつも一緒にいる事で嫌がらせなどを仕掛ける隙すらなければ自然とあきらめる」という話を聞いてありがたく乗らせてもらった……というワケだ。


 ――今はたまたま一人だけど……ううん。もしかしたら、この状況を狙ったのかも。


 しかも、彼女も一人だ。いつもと違うところを見ると、ワザとそうした可能性は否定出来ない。


「しらばっくれんじゃないわよ! あんたがいなけらば王子だって私の『魅了』の魔法のとりこになっていたはずなのに!」

「……?」


 ――ど、どういう事?


 正直。彼女の言っている事が分からない。そもそも『魅了』という魔法すら初耳だ。


「あんたさえいなければ、王子があんたに興味を持ちさえしなければ!」

「……」


 何やらブツブツと一人で呟いている内容で何となく分かったけど、要するに『魅了』という魔法は対象である人物に「興味がある人」や「好意を向けている人」がいればかからないらしい。


 ――それを踏まえて考えると、この魔法の効果は絶大だけど、発動条件がかなり厳しいって事ね……って言うか。


 なぜ彼女は一人でわざわざ私の前に現れたのだろうか。


「ふん。なんで私があんたの前に現れたのか理解出来ていないみたいね」

「……」


 ――てっきり自分の取り巻きになっている男性陣に協力を仰ぐと思っていたけど。


 そこで私はハッとした。


「……まさか」

「そのまさかよ。王子が無理なら、あんたに使えばいいってね!」


 ――しまった!


 王子が私に興味を持ってくれている事は本人の口から既に説明されていて、私も知っている。


 ――だけど私は……。


「!」


 なんて悠長に考えている内に魔法を発動させるための行動なのか彼女の手が私の方に近づいて来ていた。


 まるで、本当の「魔の手」が近づいているかの様に――。

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