第13話 変わった日常


 そうして私の婚約は大々的に……とはならず、あくまで「国王公認」という形になった。


 ――まぁ、王子としてはかなり不服の様子だったけど。


 なんて思っていると、私の姿を見つけた王子が駆け寄って来た。


「おはよう」

「おはようございます。殿下」


 王子から「名前で呼んで欲しい」と懇願されたけど、ここは一応礼儀としてキチンとすべきだと思い、丁重にお断りさせてもらった。


 ――それで言ったら私よりも……。


「えー、本当ですかぁ?」

「ああ本当だとも」

「なぁなぁ今度さぁ」


 耳に残る甲高い声と共に宰相の息子たちと共に現れたのは『ミキア・ソフェージュ』である。


 ――元々王子がいたところに上手く入り込んだって感じかな。


 彼女が転入して来てまだ時間はそんなに経っていないはずなのに、彼女はあっという間に王子の周りにいた彼らの中心に上手く入り込んだ。


 ――普通、孤立したら焦るか慌てるところなんだけど……。


「今日もやっているな。全く」


 王子はこれっぽっちも気にしていない様子。


「良いのですか? 放っておいて」

「まぁ、良くはないだろうね。だけど、僕じゃなくて彼女についたのは彼らの意思だから」


「……彼らから何か言われませんでしたか?」

「ああ、うん。でも、彼らが選んだ様に僕にも選ぶ権利があるからね」


 そう言って微笑む王子の言葉はまるで「彼らといるよりも私といる事を選んだ」と言っている様に聞こえ、思わず勘違いをしてしまいそうになる。


「それに、君とは話が合うし楽しいよ」

「……」


 傍から聞くと、とても嬉しい言葉……だけど、実はラファエル王子は基本的に私の事を「君」としか呼ばない。


 ――条件付き、期限付きの婚約だと分かっていても……。


 それはやはり少し引っかかる。


 でも、私も王子の事を「殿下」と呼んでいるのだから、きっとコレはお互い様なのだろう。


「そういえば、そろそろ入試以来の試験だったな」

「そうですね」


「今度は真剣に……な?」

「……」


 ――真剣に……ね。


 つまり、王子は筆記だけでなく、実技でも私が持っている力を最大限に使って欲しいと言っているのだろう。


「お約束は出来ませんが」

「なんでだよ」


 そう言いながら王子はクスクスと笑う。多分、こう返されるのは想定済みだったのだろう。


「面倒事はごめんですので」

「そんな事を言う輩がいても僕が守るけどな」


 ――どんな方法で……とはあえて聞かない方がいいヤツだよね、コレ。


 いや、むしろ考えない方がいいヤツなのかも知れない。


 なんて笑いながら言い合っている時。


 やたらと鋭い視線が私の方に向いている事に気が付き、王子は何も言わず目線で「気を付けた方が良いね」と言いたそうに小さく頷いた。

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