第12話 不思議な感情
――あの子……。
多分、王妃様が言っている「あの子」とは『聖女』の事を差しているのだろう。話の流れから察するに――。
――でも、なんだろう。あんまり良い印象を持たれていない……様な?
それどころかむしろ嫌悪感すら持っている様に感じる。
「はぁ。鑑定の出来る者に彼女を見てもらったけどね。確かに彼女には『聖女』ではあったわ。でも、私個人としては正直。彼女を『聖女』とは言いたくない程彼女自身の素行に問題があってね」
「素行……ですか」
王妃様は「ええ」と言いながら自分を落ち着かせる様にお茶を飲む。
「あ、お茶のおかわりが欲しかったら言ってね」
「は、はい」
――正直。このお茶、平民の私がそんなガブガブ気軽に飲んじゃいけない気がする。
「それに、ラファエルから既に話は聞いていると思うけど、彼女には黒い噂があってね」
「はい、聞いています」
「でも、それらはあくまで噂。決定的な証拠がなければ叩く事すら出来ない」
「……」
それはそうだろう。
いくら王族とは言え、噂だけで裁いては場合によっては国民の不信感につながりかねない。
「でも、それと彼女自身の素行の問題は全く別」
「……」
多分。王妃様は魔法の鑑定とは別に彼女自身の事を調べたのだろう。ラファエル王子と聖女との婚約の話が持ち上がった時点で。
「ですが、私はあくまで一平民で……」
「ええ。確かにあなたは平民よ。でも、その身分の差を凌駕するだけの魔力がある」
「……そんなに……大事なのですか?」
「そう思われても仕方がないかも知れないわね。でも、いつ何が起きるか分からないのが世界よ。たとえ今が平和だったとしても……」
――それならなおさら『聖女』の方が……。
いや、今の話を聞く限り、彼女は相当な素行不良らしい。
――魔力の多い平民と素行の悪い聖女。
どちらかを選ばないといけないと天秤にかけるとしたら、多分。前者を選ぶだろう。
「……なるほど。分かりました」
「今回はこちら側の都合であなたを巻き込んでしまっているから……とりあえず何かしら証拠を掴むまでの間。ラファエルと婚約という形をとらせてもらうわね」
――ん?
「え、その間だけでいいのですのか?」
私としてはこの話はずっと続くものだと思っていた。でも、どうやら違うそうじゃないらしいと知ったのだけど……。
――なんで、驚きよりも悲しいと思っているのだろう。
多分、この形にしてくれたのは王族側の配慮だという事はすぐに分かる。
――でも……。
何となく、さみしいとも思ってしまう。
「……じゃあ、こうしましょう」
そんな私の様子を見ていた王妃様はニッコリと笑って。
「証拠を掴み全てが解決した時。あなたがラファエルと婚約を続けたいか選んで」
「……え」
驚きつつ見た王妃様の表情は……何かに気が付いた様な……そんな穏やかなモノだった。
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