第11話 王妃様と


 結局。事情を詳しく聞いた私は「国王公認の婚約」を結んだ。


 ――まぁ、事情が事情なだけにこうなる事は分かっていたし。


 だから、その事自体に思うところはない。


 ――ただ……。


 頭では分かっていても、どうしてもあの時ラファエル王子の手を取らなかったのか……それが未だに自分自身の事ながら分からない。


「……」


 お婆ちゃんは今の国王陛下に先代の国王陛下についてものすごく盛り上がっているみたいだし、王子はそんな二人の様子を楽しそうに見ている。


 ――確か、前の国王陛下は今の国王陛下が幼い頃に亡くなってしまったんだっけ。


 そして、残った女王陛下が国を治め、今の国王陛下を立派に育て上げられたそうだ。つまり、今の国王陛下に自分の父親の記憶はほぼないに等しい。


 ――そりゃあ、気になるか。


 でも、私は自分の両親についてあまり興味がない。多分、それは……私の両親を知っている。覚えている人がいないからだと思うけど……。


 ――ここまで何も感じないと、むしろ薄情者になるのかな。


 もはや自虐的に笑えてしまう。


「?」


 そんな時、ふと王妃様と目が合った様に感じていると……。


 ――どうしたんだろう?


 王妃様は自分の近くにいたメイドに何やら耳打ちをし、そのメイドが私の方に近づいて来てコソッと……。


「王妃様が別室でお茶をしませんかとのご提案されているのですが……」

「!」


 その申し出に思わず驚いてしまったけど、王妃様が私の方を見て優しく微笑んでいるのを見て……私は小さく頷いてその提案に同意した。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ごめんなさいね。突然」

「い、いえ。お気になさらず」


 メイドに案内されて着いたのはお婆ちゃんたちのいる部屋の隣の部屋。


「陛下には既に話を通してあるので安心してね」

「わ、わざわざありがとうございます」


 まるで最初からそういう段取りだったのかと思うくらいスムーズに話が進んで、驚きと同時に申し訳ない気持ちになる。


「気にしないで。あくまで私があなたとお話したくてこの場を設けただけだから」

「私と……ですか?」


「ええ。あなたと」


 そう言って王妃様は可愛らしくニッコリと微笑む。


「ああそうだ。ラファエルから聞いたのだけど」

「?」


「あなた。ラファエルからあらかた話を聞いた上で、あの子の手を取らなかったらしいわね」

「そ! その節は本当に……!」


 まさか王妃様にまで話が行っているとは思っていなかった私は驚きと申し訳なさから頭を下げようとしたところで……。


「ああ、いいのよ。謝らないで」

「で、ですが!」


「私としてはむしろ何でも飛びつくような子じゃなくて良かったと感じたほどだから。あの子とは違ってね」

「……」


 そう言った瞬間。王妃様の目が……どことなく鋭くなった様に……私には見えた。

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