第9話 私を呼んだ理由②


「ただ気になったとは言ってもさ。僕には彼らがいるからね」

「……彼ら?」


「ほら、いつも僕と一緒にいる……」

「ああ」


 私はすぐにいつも王子と一緒にいる『彼ら』を思い出した。


「彼らに限った話じゃないけど、なかなか一人になるタイミングがなくてね。仲良くしてくれるのはいいんだけど」

「……」


 そう言って笑う王子の表情は……どことなく辛そうだ。


「今日は色々とぐうぜんが重なってね。今日しかないと思って声をかけたんだよ」

「はぁ。それで……受験の時に気になった事と、今日念願叶って声をかけた理由はなんですか?」


 ずっと疑問に思っている事を口にする。


「……君は『聖女』って知っているかい?」

「え? はい。ですが……」


 ――こんな防犯対策がされているか分からないところで話していい内容……なのかな?


 この国で言う『聖女』に関する事は一級レベルの機密事項。私も名前と「存在している」という事くらいしか知らない。


「心配しなくていい。だから『ここ』に呼んだ」

「……あの『ここ』は一体なんですか?」


 少し語尾が強くなってしまった事に関しては少しだけ目をつむって欲しい。


 なぜなら、ここに来てから私はこの異質な閉鎖空間に気が滅入りそうになっていたのだから。


「ここは学校の地図に書かれていない部屋でね。魔法で周囲には見えなくなっているんだ」


 ――そ、そんな場所が……。


 確かにこの学校には不思議な場所。入学初日に渡された地図には書かれていない場所も存在するとは噂で聞いた事があったけど……。


 ――まさかここがそうだったなんて。


「君が窮屈に感じている理由こそ君の魔力が高い事を示している」

「?」


「魔力量の多い人は魔力が制限される様な場所を極端に嫌う。ここは周囲から見えない様に色々な魔法の仕掛けがされていてね。その結果、さまざまな魔法の使用による弊害で魔力制限が起きてしまっているんだよ」

「え」


 ――起きてしまっているって……。


 つまり王子の意図など関係なしで常時起きているという事になる。


「もちろん防犯という意味でもね。で、さっき『聖女』という話が出たと思うけど……」

「は、はい。ですが、今のこの王国に正直『聖女』は……」


 ――いらないと思う。


 それこそお婆ちゃんが現役でバリバリ魔法を使っていた時は逆にいてもらわないと困ったかも知れないけど……。


「まぁ、戦より人々の生活の補助とう意味合いでは……うん。まぁ、いないよりいた方が良いってくらいだね」

「……」


 王子も随分ズバズバと言うんだ。


「それで……実はその『聖女』と思われる少女が二日後。この学校に来る事になった」

「……途中からですか」


 珍しいと言えば珍しい。


 ――でも、なぜそれを私に?


「実はその『聖女』が裏で戦を企てているらしいというタレコミがあった」

「!」


「しかも、その『聖女』と僕を婚約させようという動きも出ているらしい」

「……」


 ――本来であれば国も守り神とも呼ばれる存在が戦を逆に扇動……か。


 しかも王子との婚約の話が出ている辺り、王族の関係者の中にもきっと一緒になっているだろう。


「それで……どうして私にその大事な話を?」

「……無理を承知で『ソフィリア・ヴァイオレット』君に僕の婚約者になってもらいたい」


 王子はそう言いながら私の手を取ってひざまずいた。

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