第7話 「王子」という立場


「……?」


 ――え?


 最初に言っておこう。


 私を「位」とか「身分」といった立ち位置的に言えば貴族でもないただの平民である。加えて「魔法は使えるけど、座学以外は平均値」と見られる様に装っている。


 今はまだ「入学試験」しか行われていないモノの、これからある次の試験ではワザといくつか間違えて成績を落とそうと目論んでいるほどだ。


 ――ずっと目を付けられても困るし。


 ただ、この学校で行われる定期試験の出題される順番は難易度順ではなく、バラバラとなっている。


 そこで今日はその対策をしようと思っていた。


「――突然ですまない。俺は『ラファエル・ヴォルト』というのだが……」


 本人は私が自分の事を認識していないと思っていたようだけど、さすがに田舎出身の私でも王子の顔くらい……いや、数日もあればクラスメイトの顔くらいは覚える。


「あ、それは存じています。そうではなく……」

「?」


 でも相手は王子。つまりは王族だ。ここで対応を間違えたら私だけでなく、お婆ちゃんの首も飛びかねない。


 ――相手の機嫌を損ねない様に慎重に話さないと。


「なぜ私に声を? それに魔法が得意とは……?」

「ふむ。そうだな……」


 そう尋ねると、王子はなぜか考え込む様な表情を見せる。


「?」

「ここじゃ人目につくから場所を変えてもいいだろうか」


 ――どうして?


 そんな疑問が出てこなかったワケじゃないけど、ここは素直に従った方が良いだろう。


「……分かりました」


 そう答えると王子は「じゃあ」と私に背を向けて歩き出そうとした。


「? どうされました?」


 しかし、なぜか王子はすぐにピタッと動きを止めこちらの方を振り返る。


「いや……ところで、今日何か用事などないか? こう、急を要する様な……」

「え? いえ、特には」


 本屋に寄ろうとは思っていたけど、これはいつでも出来る話だ。


 ――しいて言うのであれば、あまり遅くならなければ……。


 でも、王族相手に平民である私の予定に合わせるワケにもいかないだろう。


「……そうか」


 ただ、ラファエル王子はなぜかその答えに安堵の表情を見せる。


「?」


 ――どうしたのだろう?


 不思議に思っていると、どうやら表情に出ていたらしく、ラファエル王子は「ああすまない」と小さく笑う。


「いや何。みんな、自分に何かしら用事。たとえそれが急を要する様な事だったとしても、俺が王子だと分かると遠慮をされてしまう事が多くて」

「……」


「だから……その、それが非常に申し訳ないというか、気まずいというか……」

「……そうだったんですね」


 そう言うと、ラファエル王子は「俺の用事なんてそんな急用を後回しにするほどじゃないのにな」と顔は笑っていたものの、どこか寂しそうに見えた。


 ――そっか。


 彼もどうやら「王子」という身分で色々と苦労しているという事が垣間見えた様な気がした。


 ――でも、それはそれとして私に一体何の用だろう?


 なんて思いながらついて行くと……そこはなんの変哲もない普通の「部屋」だった。

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