第4話 驚きの事実


「……」


 ――実は里には行った事あったけど『王都』には行った事。なかったなぁ。


 なんて思いつつ辺りを見渡すと、里にはなかったものであふれかえっており、改めて『王都』に来た……という事を実感していたのだが……。


 ――な、なんていうか……にぎやかな場所ね。


 何度か里に下りた事はあるけれど、それとは比べ物にならないくらい人が多く行き交っている。


「……」


 他にも煌びやかな場所とかあったにはあったのだけど……そこに行く人はみんな同じく煌びやかな人ばかりで……とても私とは住む世界が違って見えた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「おや、わざわざ出迎えてくれるなんてね」


 珍しい光景に目移りさせていると、あっという間に目的地に着いたらしい。


「――お久しぶりです。師匠」


 そして私たちを出迎えたのは、白衣を着た長い白っぽい髪を後ろで一つに初老の男性だった。


「師匠だなんて。私はほんのちょっとだけ魔法を教えただけさ」

「いえいえ。師匠のおかげで私の魔法の基礎が出来たと言っても過言ではありません。そもそも基礎ですらつまずく人は多いのですから」


 本当に久しぶりに会うからなのか、男性の顔はニコニコだ。


「おや、そちらの方が……」

「ああ。ソフィだよ」


 お婆ちゃんがこちらを向いたので私は男性に向かって「は、初めまして」とお辞儀をする。


「初めまして。私は『カーネロ・カーヴァン』と申します」


 男性は私を気遣ったのか笑顔だ。


 ――ん? カーネロ・カーヴァン? この名前。どこかで……。


 そこで私はお婆ちゃんが魔法の基礎を教える時に教科書代わりとして使っていた本を書いた人だという事を思い出した。


「え、じゃあこの人が……」

「ああそうさ」


 ――そっか。じゃあ、カーネロさんはお婆ちゃんの元教え子になるんだ。


「で、今は魔法学校で魔法の基礎を教えているんだろ?」

「そ、そうなんですね」


 そう言うと、カーネロさんは「いえいえ、私なんてまだまだですよ」と両手を左右に振って謙遜しながら答えた。


 どういった経緯で……という事は分からないけど、カーネロさんはお婆ちゃんを相当信頼している様だ。


「つまり、この方が試験を受ける……というワケですね?」

「ああ。そうだねぇ」


 カーネロさんの視線を感じ、首をかしげると……。


「あの、こう言うのは失礼かも知れませんが……」

「?」


 ――な、なんだろう?


 カーネロさんはなぜか気まずそうに下を向いてしまった。


「……試験の事だろう? 大丈夫さ。何せ私が基礎を教えたからね」

「それは……そうかも知れませんが……試験の日まで三日しかありませんよ?」


「え!」


 それはさすがに初耳だ。


「な、なんで言ってくれなかったの!?」


 ――それならもっとちゃんと準備をしたのに!


 一応、今まで「魔法を制御するために」という名目でお婆ちゃんから魔法の基礎は学んでいる……けども!


 それでもあまりにも急な話で……その驚きの事実にお婆ちゃんを問い詰めると……。


「なんでって……そりゃあ、気にして欲しくなかったからさ。あんたは結果とか意識しちまうと緊張していい結果が出ないからねぇ」

「そ、それにしたって……」


 たとえそれがお婆ちゃんの気遣いだとしても、やっぱり言って欲しかったと思ってしまう。それこそ……。


 ――絶対忘れていただけでしょ。


 そう思ってしまう。


「それは……申し訳ありませんでした。まさか、師匠のお考えだったとは」

「い、いえ! 気にしないでください!」


 申し訳なさそうな顔を見せるカーネロさんに思わずフォローを入れる。


「まぁ、どのみち三日後には試験だから前日に言うよりはまだいいと思うけどねぇ」

「……」


 ――どっちもどっちだよ。


 正直「なんて呑気なんだ!」と言いたくなったけれど、逆にお婆ちゃんが切羽詰まった様な態度じゃなかったからなのか……逆に「大丈夫!」と不思議と思えてしまったのだった――。

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