真実の愛にうつつを抜かす王子が役に立たなくなってしまった

仲仁へび(旧:離久)

第1話




「俺の姫! 俺の愛しい人よ! うおおおお、きっと寂しい思いをしているに違いない! なぜ邪魔をする! 俺は、会いに行かねばならんのだ!」


 王子うるさい。


 俺は王子にさるぐつわをかませて、しゃべれないようにさせた。


「むぐー!」


 この国の王子、少し前までは聡明で賢い王子だったはずなのにな。


 真実の愛とやらに目覚めた後、ほんとうにポンコツになってしまった。







 このポンコツが、人に恋をしたのは一年前。


 どっかの社交界の会場で出会って、とある女性にひとめぼれをしたらしい。


 その時、護衛である俺は近くにはいなかったから、どんな出会いかは分からないけど、


 なんか相当ロマンチックな出会い方だったらしい。


 けれど、それはあってはいけない出来事だった。


 だってその時から、うちの王子は少しづつおかしくなっていったんだから。


 恋って怖い。





 

「ああ、俺の姫、いま何をやっているのだろう」


 王子は書類仕事中や公務中にところかまわずそんなことを言って、手を止めるようになった。


 それだけでなく、うっとりとした顔で、道端で見つけた花で意味もなく占いを始めるしまつ。


 なんかこわ。


 そんなキャラじゃなかったじゃん。


 いつも冷静沈着で、武人みたいなキャラだったじゃん。


 ごっつい体格とか武道を極めた立ち振る舞いとかもあって、王子じゃなくて騎士とか傭兵とかにそんなのに間違えられるくらいじゃん。


 異変はそれだけじゃない。


 何も汚れていないのに、服の汚れを気にしたり、髪をととのえたり。


「うむ。今日の俺も、完璧」


 正直何を見せられているのかと思った。








 それから三か月後、症状はさらに悪化。


「俺の姫」とやらに会わないとやる気が出ないと言い、駄々をこね、周囲をこまらせるようになった。


 地面の上に寝転がって駄々をこねる様子なんて、とても他の人には見せられないぞ。


 しかも、いざ会わせてやれば一人で会いたいとさらにわがままを言う。


「俺の姫は、二人きりがいいと言ってるんだ! 気を利かせろ!」

「正式な妻でもないのに、そんな事できるか! 正気に戻れポンコツ!」


 そばに居続けるのには本当に苦労したよ。


 ここらへんから著しく、奇行が目立ち始め、どこでどうやって学んだのか忍者のふりをして壁の中に隠れたり、水の中に隠れたりするようになった。


 護衛をまくな護衛を。


 水の中に隠れすぎて、風邪ひいたときはいい加減にしろという気持ちになった。








 さらに半年が過ぎたころ。


 真実の愛とやらに目覚めた王子は、相手のわがままをなんでも聞くようになってしまった。


 金遣いが荒くなり、贈り物をじゃんじゃん増やし、女性がこのみそうな綺麗なものなら、国宝や遺物ですら与えるようになってしまった。

 

 さすがにこれはまずいと思ってか、周りの人間がとめにとめたさ。


 けれど王子の頭は、あっぱらぱーになってしまったらしい。


 仕事すらしなくなって、四六時中「俺の姫」のことを考えるようになって、いっそのこと駆け落ちしたいとか言い出すように。


 だからもう一刻の猶予もないと、こうして拘束、監禁しているのが現在だ。


 このまま王子が役に立たないままだと困るのだ。


 今この国を統治している王だって、いつまで王でいられるかわからない。


 老いは必ずやってくるもんなんだから。







「姫!、俺の姫! 真実の愛を貫かせてくれー!」

「うるさい」


 さるぐつわをもう一つ増やした。


「むぐー。むぐぐー」


 はあ、仕方ない。これだけはやりたくなかったんだけど。


 俺は最終兵器、そっくりさん作戦を発動。


 王子がほれた女に似たそっくりさんを探し、その人を呼んだ。芝居で、王子と別れてもらおうことにした。


「私、もうあなたのこと嫌いになったの」

「国のために働いていないなんて、幻滅したわ」

「さようなら。もうかかわらないでね」


 真実の愛とかいってるくせに、偽物かどうかも分からないんだな。


「うっ、嘘だ! そんな! 俺を捨てないでくれ!」


 王子はがっくりとうなだれて、悲惨になった。


 やがてその作戦が効いたのか、一か月するころには、王子は元の王子に戻っていった。


 そっくりさんではない方……王子は思いをよせていた本物の女の方には、多額のお金を渡して王子の視界に入らないようにといろいろ処理してしておいた。


 思うところがないわけではないけど、相手は平民だし(王子が出会ったときはなぜか社交界にいたけど)、王子が強気でアピールしてきたら断れないだろうしなあ。


 これでもう、王子が役立たずになることはない、と安心したのだが。








 数年後。


「いい加減、跡継ぎ問題をどうにかしてくれよ」

「無理だ」

「はぁ?」

「俺はひどい失恋をしたが、一時でも真実の愛を味わってしまった。真実の愛は実にいいものだった。俺はあれを超える愛を見つけないかぎり妻を迎えることはせん」


 かなり重い後遺症が残ってしまったようだった。

 

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