後書き 神の語り

 ……さて。

 人間とは愚かな生き物だ。

 ただ、愚かであるからこそ愛おしくもある。

 私は昔からずっと人間が好きだった。

 どれだけの歴史を重ねても、同じことを繰り返す人間たち。

 同じことを延々と繰り返しながら、後退したり、時にはほんの少しだけ前進したり。

 途方もない時間の中で、いろんな人間を見てきた。

 その中でも特別だったのが緒蓮おれん、お前だ。

 神の存在を信じない者も数多くいる中で、お前は会ったことも感じたこともないのに、愚直なまでに私の存在を信じ続けた。

 何とも愚かで、愛おしいことか。

 早くに両親を亡くし、集落ではつらい思いもしてきただろう。

 その中で愚かな両親に吹き込まれた神という偶像にすがり、私に恥じない生き方をしてきた。

 周りの人間が愚かであればあるほど、お前の痛々しくすら感じられる清らかさが際立った。

 お前にとっては私が救いであったのだろうよ。

 私にすがるお前が可愛くて、私はお前に語り掛けた。

 お前もそれを素直に受け入れた。

 お前を肉体から解き放って、ようやく直接触れられるようになってお前への愛おしさはどんどん増していった。

 無論、お前は常に私の手中にある。

 だから、家族での時間をもう少し過ごしたかったというお前の願いを私のほんの気まぐれで叶えてやった。

 お前の親になる男はほんの少しだけ私に似せておいた。

 物語には伏線が必要だろう?

 結局、お前は最後の最後でようやく思い出したようだがな。

 私は私で、お前のもっといろんな表情を見てみたかった。

 お前が愛されて、皆に可愛がられて……かつてとは真逆の環境で育っていくお前がどうなっていくのかを見ていたかった。

 私が作った偽りの世界で幸せそうにしているお前は相変わらず滑稽で、愛おしかった。

 やはりお前はどのような環境でも変わらないらしい。

 さて、そろそろ戻ってくる頃だろうか。

 私のもとへ戻ってきたお前は何と言うのだろうか。

 何てことをしてくれたんだと怒りをぶつけてくるのか、さめざめと泣いて悲しかったと言うのか。

 私がお前のために作り上げた世界はどうだ?

 でも、ここに戻って来れば、お前は私の気持ちもよくわかってくれるだろう。

 お前が望むなら、またお前が望むような世界を作ろう。

 お前は私だけのものだ。

 ああ、愛しい緒蓮。

 戻ってきたら、今度はどうやって過ごそうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かみさまの庭で育っていく一輪の蓮 片葉 彩愛沙 @kataha_nerume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ