第27話 不思議に思う周り

「父さん、バイト行ってくるね」

「おう、無理すんなよ」

 アルバイトへ向かう息子を見送る様大ようだい。ただ、そんな息子の様子に様大は違和感を抱いていた。

 いつものように様大が縁側に腰かけていると、九尾きゅうびがやってきた。

「よっ、緒蓮おれんは今日もバイトか?」

「ああ」

「浮かない顔だねぇ。お前が言ってた通りになったってのに」

「何だろうなぁ……最近あいつ、おかしいんだよなぁ」

「あー……なんか生き急ぐっつーか、そんな感じはするよな」

「となり町の寺で説法聞いた次の日からなんだよなぁ」

 九尾は一瞬静かになると言った。

「殴り込みにでも行くか?」

「馬鹿、行かねぇよ」

 様大に制止され、九尾は笑うと隣にどっかりと腰掛ける。

「まぁ、あれくらいの年だといろいろ考えるもんだろ。俺らは何も考えてなかったけど」

「……ああでもねぇ、こうでもねぇって苦しみながら、最終的に自分の道を見つけられりゃあいいけどよ。やっぱ子どもが苦しんでるとこは見たくねぇよなぁ……まぁ、見守るしかねぇんだけど」

「緒蓮なら大丈夫だろ。お前が親であんだけ真っ当に育ったんだ。あいつは大したもんだよ」


 それから数日して、昼の読経を終えた頃に、三雲みくもがふらりとやってきた。

さん、どうも」

「ああ、三雲。どうした?」

「ちょっと緒蓮さんのことが気になりまして」

「……お前もか」

 客間へ案内し、修行僧に茶を用意させた。三雲はいつもの笑顔を見せていなかった。

「緒蓮さん、雰囲気が変わりましたね?」

「お前が言ってたとなり町の寺の説法を聞いた翌日から就活もやめてさ、バイトするようになったんだよ。ただ、楽しんでるって感じじゃねぇんだよな。何か焦ってるんだよなぁ。それとなく聞いてもぜってぇ答えねぇし」

「そうなんですよね。何かに焦っている感じはすごくわかります。ただ……変な言い方になりますが、表情は悟りを開いたような感じもするんです。急に大人びたというか何というか」

 三雲はそこで言葉を詰まらせる。

「私が説法をすすめたの、余計だったでしょうか?」

「いや、あれはあれで緒蓮には必要だったんだろうよ。そのうち、自分なりに答えを見つけんだろ。それまでが苦しいんだろうけどなぁ」

 様大と三雲は二人、茶を飲みながら表情を曇らせていた。

 それからも、老人たちが村から山道を登って、緒蓮の様子を尋ねにやってきた。親である自分以外の誰が見ても、やはり緒蓮の様子はおかしかったのだ。何かがあるのは明らかだったが、当の本人が何も言わないのではどうしようもない。

 ただ、その一方で緒蓮がこれだけ多くの人間に愛されているのだとわかって、どこか誇らしいような、嬉しいような感覚にもなった。

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