第25話 緒蓮の神への思い

 集落に緒蓮おれんの両親がいた頃、幼い緒蓮は神様のことをよく聞かされていた。

「どんなときにも神様は見守ってくれているんだよ。だから、どんなときでも神様に恥ずかしくない生き方をしなさい」

「神様ってどんな人?」

「うーん、人じゃないんだけどね。とーっても愛情深いお方なんだよ。もし父ちゃんと母ちゃんが死んで、お前がひとりぼっちになって、世界中の誰もが敵になったとしても神様だけはお前の味方をしてくれるさ」

 両親が神の話をしてくれたからこそ、天涯孤独の身になっても緒蓮は腐ることなく、純粋なままでいられたのだった。


 緒蓮が両親のことを思い出していると、神が口を開いた。

「お前は初めて私と会ったとき、驚かなかったな」

「ええ、両親から神様の話はよく聞かされていましたから」

「確かに、お前は両親に愛されていた」

「ええ、本当にそう思います」

「お前のことはずっと見ていたよ。人間は愚かで愛おしい。その中でもお前は特別だ」

 神の大きな手で撫でられると、緒蓮は心が安らぐ。

「どんなときにも神様は見守ってくれている。だから神様に恥ずかしくない生き方をするようにと言われていたので。それに、神様は愛情深いお方だと。私がひとりぼっちになって、世界中の誰もが敵になっても神様だけは味方になってくれるとも言っていました」

「ああ、いかにも愚かな人間らしい都合のいい偶像だ。でも、お前が私を愛する限り、私はいつだってお前の味方だよ」

 その言葉を聞いて緒蓮は神を抱きしめ、神もまたそんな緒蓮を優しく包み込んだ。

 両親から神の話を聞かされていても、ひとりになれば寂しかったし、集落で邪険にされればつらかった。それでも感情的になってしまえば神に恥じない生き方はできない。救いのない日々で、本当に神は存在するのかと疑ったこともある。だからこそ、あの祠の中で神の存在を確かめることができて、緒蓮は本当に嬉しかったのだ。神が存在して、実際に自分のことをずっと見守ってくれていた。自分の存在を受け入れ、認めてくれた。味方でいると言ってくれて、優しく包み込んでくれる。

 緒蓮にとって今や神は自分にとってのすべてだった。緒蓮にとって神が特別な存在にならないわけがなかった。

 一方で、神と、人間である自分の感覚の違いに戸惑うことも多かった。緒蓮は、見ている人間に感情移入して心を動かされるのだが、神はあくまでも娯楽としてしか認識していなかった。神には神にしかない感覚があるのだろう。それでも緒蓮は間違いなく神を愛していたし、愛していたからこそ、神と人間のという絶対的な感覚の違いですらも乗り越えようと必死だった。

 そして、そんな神に心を寄せて、愛されている自分。ひとりの人間でしかなかった自分が、そういう関係になっていることがおこがましいのではないかという思いもあった。

 神もまた、そんな緒蓮の思いまでも丸ごと愛し、二人は永遠の愛を誓い合ったのだ。

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