第24話 かつての神との関係
地球の地図が今とは違う形をしていた頃。
繰り返される人間の営みを遡っていくと、今の寺や村がある場所にかつての
その集落では二十年に一度、神への供物を捧げなければならなかった。集落の者たちは厄介払いになるからと、収穫した米や野菜、果物の代わりに緒蓮を捧げることにした。緒蓮はそれで集落の人たちが助かるならと、供物となることを受け入れた。
男であった緒蓮は、せめて見繕うために、油をつけた櫛で伸びきった髪を綺麗に梳かした。険しい山道を進み、山奥の祠の中に入ると、緒蓮は供物としてただ死ぬのを待っていた。
神は緒蓮のことをよく知っていた。集落でどれだけ邪険にされても、誰にでも優しく、誰よりも純粋な人間だった。意地汚い集落の中にいると、緒蓮はまるで泥中の蓮のようだった。
だから、神は緒蓮を供物として受け入れるのではなく、愛おしむ存在として受け入れた。
祠の中にいる緒蓮に、神は声をかける。驚くかと思っていたものの、緒蓮は神の存在をすんなりと受け入れた。
それから神と緒蓮は二人だけでいろいろな話をした。ただ、神とは違って人間としての肉体を持っている緒蓮は徐々に弱っていく。祠の中で何も食べなくても数か月生き延びていたが、それでも限界が近かった。このままではいけないと、神は緒蓮を魂だけの存在にした。すると緒蓮は、初めて神の姿をはっきりと認識することができ、直接触れられるようにもなった。
当時の緒蓮は知る由もないが、神の姿はどことなく
神は緒蓮よりも大きく、抱きしめられると温かく、とてつもないほどの幸福感でいっぱいになった。時間という概念に縛られることなく、二人はいろいろなことを語り合ったし、二人で下界を見下ろすこともあった。厳しい自然の中で自由気ままに生きている動植物。大きな災害で何もかもがダメになってしまっても、ゼロから懸命にやり直そうとする人間たち。ひとりの人間にスポットを当てて、その人間の人生という舞台を観客のように見つめることもあった。
神にとってはこれまでに何度も何度も見てきたもののひとつに過ぎなかったが、緒蓮にとってはすべてが新鮮だった。
そうやって二人の世界を紡いでいく中で、神と緒蓮は自然とお互いのことを愛するようになった。
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