第23話 神とのこと
説法を聞き終わった
「ん……おう、緒蓮。説法はどうだったよ?」
「なかなか面白かったよ。いっそのこと、父さんも説法始めれば?」
「俺が説法したってなぁ。これじゃ、説得力もくそもねぇ」
べーっとスプリットタンを見せる様大。
「あははっ、逆に説得力出るんじゃない? あーあ、思ってたより長くて疲れちゃった。ちょっと休むね」
「おう、ゆっくり休めよ」
軽トラに揺られながら、緒蓮は目を閉じていた。
緒蓮は自室に戻ると、座り込んだ。自分の中で何かが引っかかっていた。忘れてはいけない何かを忘れてしまっている。
自室の戸棚の中から、子どもの頃のアルバムを取り出す。若い頃の様大が幼い緒蓮を不慣れな感じで抱いている。
それらを眺めていると、気付けば夕食の時間になっていた。様大たちと一緒に食事をとって、緒蓮はまた自室に戻る。
何度も何度もアルバムを見返し、風呂に入って、歯磨きをして、寝る直前までアルバムを見ていた。アルバムを戸棚に戻そうとしたときに、奥に大きめのクッキー缶が入っているのが見えた。取り出してみると、可愛らしいクッキー缶。昔、様大が檀家からもらい、緒蓮がほしいとせがんだのだった。子どもの頃は宝物入れのように大切にしていた。
懐かしくなって、そのクッキー缶を開けてみる。小石やビー玉、キーホルダーなどいろいろなものが入っている。その下に、大きな画用紙が裏返しになって入っていた。その画用紙を取り出して、幼かった頃の緒蓮自身が描いた絵を見てみる。一枚は様大を描いたもの。そして、もう一枚には様大に似ているようで少し違う誰かが描かれている。
かつての三雲とのやり取りを思い出す。
『これもお父さん?』
『ううん。これはねぇ、かみさま!』
『神様?』
『うん! すごくおおきいの!』
その瞬間だった。
緒蓮の中でいろいろなものがつながっていく。
幼い頃から消えることのない死への恐怖。
催眠療法での心地良く、懐かしい感覚。
となり町の寺の住職が話していたこと。
そうだった。
神はいる。
何よりも自分はその神を確実に知っている。
緒蓮はようやくかつて永遠の愛を誓い合った神のことを思い出したのだった。
なぜ今自分がここにいるのか。
そして、これから自分がどうなっていくのか。
すべてがわかった。
あまりにも壮大な物語の中に自分がいて、それに今日まで気付かずに生きてきた。
もう終わりが近づいているというのに。
外からは様大と九尾の声が聞こえてくる。
また二人は縁側で飲んでいるのだろう。
緒蓮はひとり、部屋の中で呆然とするのだった。
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