第16話 妊娠から出産

 様大ようだいが住職になって、しばらく経ったある日。

 様大は自分の体に違和感を覚えた。腹が出ているような気がするのだ。脂肪でたるんでいるわけではなく、内臓が腫れているのではないかというような出方をしている。

 ここ最近は食べすぎたというほど食べてはいない。となると、酒の飲みすぎだろうか。

(俺も年を取っちまったか……)

 もう昔のような無茶ができなくなってきたのかと思うと、自分自身にげんなりする。そのうち、酸っぱいものがこみ上げてきて、吐きそうになってきた。体も重く、だるい。これはまずい。二、三日様子を見て、どうにもならないなら大人しく病院にでも行くか。そう考えて、様大は寺のことを他の人間に任せて休むことにした。

 一日、二日……と経っても体調は一向に良くならない。腹も最初より膨れているような気がする。

 三日目も相変わらずで、明日は諦めて病院へ行くか、と考えていた。

 その日の夜、様大は破水し、緒蓮おれんを生んだのだった。自分が妊娠、出産を経験するなんて毛ほども考えていなかった。住職になってからも九尾との営みはあったものの、それで妊娠するとは到底考えられなかった。

 それでも、今ここで自分の腹から新しい命が生まれ出たことには変わりない。この子をどうするのか。拾ったとでも言って、施設に預けるか。自分の体のことが知られるのを承知で、自分が生んだと明かし、寺で育てるのか。

(でも、これ、誰の子なんだ?)

 様大にも確たる自信がなく、答えようがなかった。

 それならばと、生まれた子を養子として迎えることにしたのだった。体調不良と理由をつけて休んでいたが、実はとある人物から養子を迎えることになっており、こっそりとやり取りをしていた、という筋書きを考え、様大はそれで通すことにした。

「養子ぃ? お前がぁ?」

「あー……いろいろあんだよ」

「まぁ、いいけどさ。俺にだってちょっとくらい話してくれたっていいじゃん。水くせぇなぁ~」

 九尾はさすがに怪しんではいたが、彼は彼で様大が妊娠するとは考えていなかったためか、事情のある子を迎えたということには一応納得しているようだった。

 修行僧たちも、村人たちも、それなりに驚いてはいたものの、様大が抱いているその子があまりにも可愛くて、養子を迎えることになった経緯を気にする者はほとんどいなかった。

 そうやって様大は住職の仕事をこなしながら、自分の腹から生まれた子を「緒蓮」と名付け表向きは養子として育てることになったのだった。

「それにしても“緒蓮”って名前、誰がつけたんだ?」

「俺」

「うっそー、お前にしちゃいいセンスじゃん」

「るっせぇな、別にいいだろ。ここに降ってきたんだよ」

 様大は頭を指す。

天啓てんけいってやつかねぇ。すっかり坊さんになっちまって」

 九尾はからかうように笑った。「天啓」だなんて、様大だって今まで考えたこともなかった。確かにそうかもしれないと、少しだけ思った。だが、それを言ってしまうと神の存在を認めてしまうことになる気がして、話を変えた。


 それから一応、様大は緒蓮の血縁を調べるため、DNA鑑定をおこなったが、九尾のDNAとは合致せず、万が一ということで調べた修行僧たちのDNAとも合致しなかった。

 それどころか、様大自身とも微妙な数値が出てしまい、養子として迎えるという選択肢に説得力を持たせる結果になってしまった。

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