第15話 住職になってから

 寺の檀家も最初は様大ようだいに声をかけるのを躊躇していた。ただ、だからといって通夜や告別式をしないわけにはいかない。様大のガラの悪い歩き方は相変わらずだったが、いざ通夜や告別式での読経を聞くと檀家の反応も変わった。その読経はすべての迷いを断ち切るかのような力強さがあった。

「意外と様になっておるなぁ」

「まぁ、見た目と振る舞い以外はちゃんと住職やっとるようじゃし……」

「なんだかんだで仕事はできる奴なんじゃろう」

「あんな人でも、やっぱり住職なんだねぇ」

 檀家たちは口々にそう言った。

 出棺、火葬まで立ち会い、やることはやったと様大が帰ろうとすると、檀家が恐る恐る食事をしないかと誘ってきた。前の住職からの引継ぎの際には、檀家に誘われたら断るなとしつこいくらいに言われていた。面倒ではあったものの、様大は彼らと一緒に食事をすることにした。


 そこから檀家とも少しずつ距離が縮まっていき、村の老人たちがわざわざ山道を歩いて様大に会いに行くまでになったのだった。

 九尾きゅうびは九尾で、様大の住職としての働きぶりをよく見に行っていたし、それなりにうまくやっているのを見て、内心喜んでいた。

 一方、住職になってから様大は修行僧たちと関係を持たないようにしていた。


 その代わり、頻繁に冷やかしに来る九尾を自室に招くようになった。

「なぁ、俺が寺抜けてからこっちのほうはどうしてた?」

 九尾が卑猥な手付きで尋ねる。

「最初はひとりで抜いてた」

「なぁに? 俺とやってんの思い出しながら?」

「ああ、そうだよ。あんだけやってた相手が突然いなくなりゃ誰だって困るだろぉよ。まぁ、お前がいなくなった後も適当に相手は見つけたけどな」

「体のこと、よくバレなかったな」

「これでも相手は選んでたんでね」

「あっ、そ」

 部屋の柱に寄り掛かった九尾がたばこの煙を吐き出す。

「お前は? 抜いてた?」

 様大も布団から身を乗り出て畳に肘をつき、たばこに火をつけて尋ねた。

「そりゃあね。俺って結構モテるのよ」

「だろうな」

「でもさ、今考えてみるとそんな奴とやっててもつまんねぇわ」

 そういうと九尾はたばこを灰皿に押しつけて消した。そして、横になっている様大の上に覆いかぶさる。

「おい、もうやんねぇぞ」

「わかってる。明日、朝から俺仕事なの」

「あっそ」

「でも、もうちょっと一緒にいたい」

 そう言って九尾は様大の首筋に顔を埋めた。

(こいつって意外と寂しがりだよな)

 様大は九尾の頭をなでながらそう思うのだった。

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