第13話 寺での様大

 九尾きゅうびがいなくなってから、様大ようだいは自分の欲を持て余していた。便所の個室でひとり、九尾との営みを思い出しながら自分の手で慰めることもあった。

(あいつは今頃快適にやってんだろうなぁ)


 ある日、様大は深夜に催してひとりふらっと便所へ向かった。

 すると、先客がいた。人の気配ではっと振り返ったその顔は、よく知っている修行僧だった。様大よりも長く寺にいる模範的だとされている彼。目元も雰囲気も柔らかく、かつてどのような悪行をしていたのか今ではまったく想像がつかなかった。

「あっ、さん……」

 上半身だけで振り返って、自分の下半身を見せまいと必死に隠している。下がった作務衣の向こうで何をしていたのかなど、聞くまでもない。

「あんたもそういうことするんだな」

 様大はどこかほっとしていた。

「えっと、あの、その……誰にも言わないでもらえます……?」

「ああ、言わねぇよ」

「ありがとうございます……」

 様大は彼の隣に近づいた。

「こういうのさ、どんくらいしてんの?」

「えっと……週に二回とか、三回とか……?」

「結構だな」

 くつくつと様大が笑うと、彼はますます小さくなる。

「こっちだけはどうにもならなくて……」

「じゃあさ、誰にも言わない代わりに俺とやってみねぇ?」

「はぇっ!?」

 様大は、自分の体の秘密を見せた。彼は男同士というものに戸惑いはあったようだが、欲には抗えず、それからは様大と関係を持つようになった。


 しばらく様大と修行僧とでお互いの欲を解消する日々が続いたが、その修行僧が寺を正式に出ることになった。

 最後の日、いつものように営みを終えると彼は様大に謝罪と感謝の気持ちを伝えた。

「八尾さん、今までその……すみませんでした」

「いや、俺から誘ったんだからあんたが謝るこたねぇよ」

「あと、ありがとうございました」

「ああ?」

「八尾さん、僕のこと誰にも言わないでくれましたし」

「それはお互い様だろ」

「はい! 八尾さんのことは墓場まで持っていきますから!」

「ははっ、ありがてぇ」

 関係を持った奴が寺を出たらまた新しい相手を見つけて、そいつが出て行ったらまた新しい相手を見つける。様大は慎重に選んで関係を持っていたため、体の秘密が知れ渡ることはなかった。寺の中では様大以外にも修行僧同士で関係を持っている者がそれなりにいたようで、住職は住職でそのあたりは黙認していた。風紀よりも脱走者が出ないことのほうが優先だったのだ。


 それからも様大の相手が変わることはあっても、生活自体にそう変化はなかった。

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