第10話 昔の様大
今でこそスプリットタンに全身刺青という出で立ちで住職をしている
様大の両親はごく普通の人間で、様大自身もごく普通の子として育てられた。
ただ、高校で悪い連中とつるむようになって、「これが自分の本来あるべき姿なのだ」という感覚を抱くようになった。
それからは普通である自分を捨て去るかのように、非行に走った。舌に切れ目を入れ、服で見えない部分に刺青を彫り始めた。かろうじて高校を卒業すると、ただのチンピラになってしまった。蛇のようになってしまった息子に、父親は怒り、母親は「お腹を痛めて産んだのに」と泣き崩れた。
「どうしてこうなってしまったんだ」
そう嘆かれるたびに、様大は自分がわからなくなった。どうして? こっちが聞きたい。
考えようとすると、無性に腹が立って、とにかく暴れたくなった。非行にもどんどん拍車がかかった。
もうどうしようもないと両親は様大に睡眠薬を盛り、眠っている間に車に乗せて、寺へ放り込んだ。
目覚めると寺の本堂におり、ポケットには縁を切ると書かれた両親からの手紙だけが残されていた。
「まぁ、そうなるだろうな」と様大は納得し、寺で修行僧としての生活を始めることになった。
規則正しい生活はきついものだったが、慣れてしまうと大したことはない。退屈に感じる時間もあったが、退屈は退屈なりに楽しめるようにもなっていた。
寺に入って数年が経ったある日、ふと両親のことが気になって、寺を抜け出すことにした。そう決めてからは、住職や村人の行動を観察して、あっという間に抜け出せた。警戒はしていたが、拍子抜けするほど簡単だった。
(案外チョロいな)
様大はお布施からくすねた金で電車を乗り継ぎ、両親が住んでいた場所へと向かった。抜け出したのは未明で、着いた時には朝日が昇っていた。かつての住居には表札が無くなっており、『売家』の二文字が書かれた看板があった。カーテンの無い窓からのぞく室内は、もぬけの殻となっていた。
近所の人に聞いてみると、もう何年も前に引っ越したのだという。わかりきったことだったが、両親が本気で縁を切ったのだという事実を目の当たりにしてしばらく立ち尽くす。
気付けば村に戻っていた。寺も村も修行僧が逃げ出したと大騒ぎしていた。逃げ出したわけではないと何度も訴えたものの、聞き入れてもらえるわけもなく、様大はその日、足を折られたのだった。
最初から逃げ出すつもりなどなかった。もぬけの殻となった家を見て、改めて寺にしか居場所がないとわかった。
(しばらくは不自由するな……)
痛む足に顔を歪ませながら、部屋の隅でうずくまる様大。
そんな様大にひとりの修行僧が近づいてきた。どう見ても初めて見る顔だった。
じっと見つめてくる綺麗な瞳に、様大は焦った。
「何だよ。つーか、お前誰だ」
「いや、痛そうだなと思って。俺、今日来たばっか」
「名前は?」
「
ははっ、と様大は笑った。
「俺は八本の尾っぽで八尾だ」
「この寺の話、聞いてたけどほんとにやんのな。えぐいわー」
「まぁ、えぐいこと散々してきたからここに放り込まれてんだろ」
「それもそうか」
その日から様大と九尾はよく話すようになった。
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