第9話 かつての村や寺

 様大ようだいが住職をしているこの寺は、古い歴史がある。


 様大の前にも何人もの住職がいたが、寺の本質というのは昔から変わらない。女人禁制。そして、更生の余地のない人間を受け入れるための場所。いや、放り込むための場所と言ったほうがいいのかもしれない。


 もちろん、それまで悪行三昧だった人間が寺に放り込まれたからといって素直に修行僧として生活できるわけもない。その日のうちに逃げ出すような輩もいた。

 ただ、今まで逃げ出して無事でいられた者は誰ひとりいない。寝静まった深夜に音を立てずに逃げ出そうとしても、あえて明るい時間帯に堂々と逃げ出そうとしても、寺を逃げ出したものは絶対に捕まった。脱走者が出ると、寺だけではなく村総出で探し出すからだ。捕まった者はもう二度と逃げ出さないように、そして逃げられないようにと足を折られる。見せしめのように修行僧たちの前で惨たらしく足を折られるので、それを見て大人しく修行僧になることを受け入れる者たちも少なくない。


 辺鄙へんぴな村にとってこの寺は救いの場所でもあり、手に負えないものや都合の悪いものを放り込む夢の島でもあった。村人にとっても寺はなくてはならない存在だったし、寺にとっても村人はなくてはならない存在だった。利害関係が一致している歪んだ共存関係といったところだろうか。住職によって寺の雰囲気が変わることはあっても、村は寺とは常に一定の距離を置いて接してきた。


 だからこそ、新しい住職が様大に決まったときには「もう寺も村も終わりかもしれない」と何人もの村人が思ったのだという。それまでの住職は多少人格的に問題があったとしても、見た目や振る舞いだけはそれなりだった。


 それに対して、様大は見た目も振る舞いも住職には明らかに不向き。様大が住職になることで、寺がチンピラの合宿所になってしまうのではないかと危惧していた。そうなれば、村の治安も悪くなる。


 ただ、そんな村人の心配をよそに様大は不器用なりに住職としてそれなりの働きをするようになった。体も態度も大きく、口も悪い。それでも時折見せる不器用な優しさに、村人たちは出来の悪い息子を愛おしむかのような感情を抱くようになった。


 結果的に様大が住職になってから、寺も比較的平和になり、村との関係も良好になっていったのだった。

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