第5話 様大と九尾の関係
「緒蓮、就活苦戦してるねぇ」
「しょうがねぇ。あの体質は一緒に暮らしてる奴にしかわかんねぇしよ」
「そうだねぇ」
「無理に就活しなくたって、バイトしながら寺で暮らしゃあいいのに」
九尾はおちょこに酒を注ぎ口をつけると言った。
「あの子、俺んとこに就職したらいいのになぁ」
「ん?」
「いや、だってさ。普通に就職するよりもここのほうがよっぽどいいし、閉じ込めておけば、世間の荒波にも揉まれないでしょ?」
様大があきれた表情でため息をつく。
「お前なあ……」と九尾からおちょこを奪い取り、残った酒を一気に流し込んだ。そして、酒気を帯びた息を大きく吐き出す。
九尾は返されたおちょこに酒を注ぐ。水面に映った月がゆらゆらと揺れている。
「それに、これは緒蓮のためでもあるんだよ」
九尾は酒をくいっと飲んだ。
「あの子の『体質』を知ってる人は多いほうがいいでしょ? たとえば、ここの人間ならみんな知ってるわけだし」
「まぁな」と様大はおちょこを置いて答えた。「でも、あいつもなかなか頑固だからなぁ。あれはもう絶対に就職するぞ」
「あの子は賢いから。きっとすぐにいい就職先を見つけるよ」
九尾がそう言うと、様大は酒を飲みながら笑う。が、そこには少しの寂しさも含まれていることを九尾は察した。
(お前も立派な親になったもんだな)と心の中でつぶやきながら酒を煽る。
「それにしても羨ましいもんだよ。緒蓮はハゲることなさそうで」
その言葉を聞き、様大は九尾の額に目線を向ける。「お前、きてるもんな」
「うるせぇ! お前だって危ねぇだろ、この生臭坊主」
「俺はハゲたら潔く坊主にするんだよ」
「へぇへぇ、
「はんっ、お前も坊って呼ばれてるんだから、誤魔化せなくなったらそれこそ坊主にすりゃあいい」
「まったく……ジジババはいつまでも子ども扱いで困るよ」
「まぁ、いくつになっても可愛いってのはわかるけどな」
「出たよ、親バカ」
九尾と様大の口周りがよくなる。酒が入ったことと、お互いに遠慮なく話しているからであろうが。
「お前が養子とるって聞いたときは本当にビックリしたわ。実は俺の子だったりしないの?」
「お前の子だったらあんないい子に育ってねぇよ」
「それもそうか」
「おう」と様大は頷いて、また漬物をぼりぼりとかみ砕いた。
おちょこの淵を舐めて、九尾が言った。
「で……今日はどうすんの?」
「ああ? わかりきったこと聞くんじゃねぇよ」
「息子が寝てるのにお父さんのエッチー」
「緒蓮、一度寝たらぜってぇ起きないんだよな。変なとこだけ俺に似たわ」
「仲のいい親子なこって」
寺の奥にある様大の部屋へと向かうと、九尾がすぐに様大を押し倒す。様大は生意気そうに挑発するかのような表情をした。九尾が言った。
「本当にお前の体エロいわ」
「うるせぇ」
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