第3話 緒蓮の就活
実際には様大が産んだ子で間違いないのだが、彼自身の体の秘密は一部の人にしか知られておらず、正直に言ってもややこしいことになりそうだからと緒蓮を養子として迎えたことにしたのだった。
その緒蓮はすくすく育って、現在絶賛就職活動中。
ただ、結果は芳しくない。
書類選考はクリアできても、面接で絶対に落とされてしまうのだ。
「ええと、八尾緒蓮さん?」
「はい!」
「男性……ですよね?」
「はい!」
はきはきと答える緒蓮を、面接官はじろじろと睨める。
「履歴書の写真とだいぶ印象が違いますね。写真を撮るときだけウィッグを?」
「いえ、そういうわけでは……」
「うーん、男性で長髪はちょっとねぇ」
(ですよね……)
その後も申し訳程度のやり取りはあったものの、面接官の態度や声色、表情から結果はわかりきっていた。
「あーあ、またダメだった……」
緒蓮は襟足あたりでひとつにまとめた自分の長い髪を改めて手に取る。特別な手入れはしていないのに、憎らしいほどに艶やかな黒髪。この髪がまた厄介なもので、どれだけ短く切っても翌日にはもとの尻の長さまで戻ってしまう。特異体質とでも言うべきなのだろうか。ただ、その体質を面接で訴えたところでろくに取り合ってはもらえない。
ふと、街中のウィンドウに映る自分の姿が視界の端に見える。長髪も相まって、女の子だと昔から間違われる中性的な顔。これに、リクルートスーツというのはやはりどこかちくはぐな感じがした。スーツに長髪で働ける仕事……それこそホストか、ヤクザかくらいか。
ヤクザなら伝手があるなぁ。そんなことをほとんどやけくそになって考えながら、緒蓮は帰路につく。
「はぁ……またお祈りに行かなきゃ」
駅へトボトボと歩いていく。
お祈り、というのはただの合言葉だ。村には様大が管理する寺以外に、大きな稲荷神社もある。そこの神主と様大は付き合いがあり、緒蓮も小さな頃から世話になっている。就職成功を祈願して、ここのところせわしなく通っているのだ。
就職活動がうまくいっていないからといって、誰かに責められるわけでもない。特に、様大に至っては「別に就職しなくたってアルバイトでもいいじゃねぇか」と言っている。確かに適当にアルバイトをしながら寺で暮らすというのもひとつではあったが、それでは緒蓮自身が納得できなかった。
(父さんに親孝行したいんだよ……)
ありがちではあるが、これが理由だ。あと、これまでお世話になった周りの人たちにも恩返しがしたかった。
ただ、このままではいつになるのか。
昼間の駅のホームは人気が少ない。「はぁ〜……」と大きなため息をつく。
すると、緒蓮の頭にコツンと軽い衝撃があった。
後ろを振り向くと、ウェーブがかった金髪をなびかせた美形の大男が立っていた。
「
「なぁに? 今日も就活ダメだったの?」
九尾はいたずらっぽく笑い、緒蓮の鼻先をつんとつついた。
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