第2話 殺人現場
"また殺人事件が起こった"というニュースを聞き、私はすぐに屋敷を飛び出した。
義脚を魔術で強化し、山を下り、屋根を越え、人を掻き分け、最短ルートで現場へと向かう。
事件が起こったのは、今日未明午前5時24分頃。
繁華街の開けた路地裏で、30代前半の成人男性が遺体として発見された。
死因は何者かによる噛みつき。遺体は原型が分からないほど酷く損傷しており、獣に襲われたかのような噛みつき痕が複数存在していた。
警察はこれを「緑崎市内連続猟奇殺人事件」と見て調査をしている……らしい。
私はニュースで言われていた情報を頼りに場所を特定し、到着する。
路地裏の入り口にはトラテープが乱雑に貼られており、既に警察が調査で入ったことが分かる。物音がしないので、もう撤退しているようだ。
「人は……いないか」
私はテープを飛び越え中へと侵入する。幸い周りに人はいなかったので、人目を機にする必要がなかった。
現場には当然、人影などなかった。
あるのは地面に薄く染み付いてしまった少しの血痕のみ。
見渡す限り無人の道。血を気にしなければ普通の路地裏。
しかし、目に見える残された証拠は存在しない。というよりそもそもアテにしていない。
「––––––」
再度、周囲に誰もいないかを確認する。
これからするのは言わば極秘。一般社会には知られてはいけない秘術だ。
「人影無し。これならやれる」
確認を終える。
私はその場に片膝を突き、瞼を下ろし、魔術行使の為に体内魔力を放出する。
吐き出された魔力は地面へと流れていき、私を中心に円状の模様を作り出す。
模様は淡い青色の光を発し、ゆっくりと回転する。
「––––––分析、開始」
静かに口にする一言。
私は簡単な魔術を使い、周囲を漂う空気中の魔力を分析する。
調べるのは自然により生み出された魔力ではなく、それ以外。人工的に作り出された魔力の残滓。事件の被害者を殺したソレより染み出た紛い物。
私の狙いはこれだ。
この魔力を調べることで本体の力量、生み出されてからの経過時間が分かる。
「これじゃない……これじゃない……これだ」
そして見つけ出す。
濃度は薄いが、全然問題はない。
「魔力としては未熟、質も悪い。しかも……まだ幼い。生み出されてからほとんど時間が経ってないか」
得意ではないが自分なりに細かく調べていく。
……これくらいか。
ある程度調べ終わると、私は魔術を解除して立ち上がる。同時に地面に描かれていた魔術陣も消え去った。
「時間的にも遠くには行けない筈。奴らの活動時間は夜間。それまではどこかに身を隠しているに違いない……これは周辺を捜索、かな?」
決定事項を呟き、私は先程歩いてきた道を引き返す。もうここに用は無い。
……あの男の計画らしきものは絶対に潰す。
完膚無きまでに潰す。
そして、あの男も殺す。
それが、今は亡き父母への誓い。
それこそが、私の復讐。
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