四章

第43話 ジェラールside1


──ヴィヴィアンをベルナデットと共に屠ってから三ヶ月が経とうとしていた。


ジェラールはヴィヴィアンの死体を死の森に投げ捨ててからのことを思い出す。

隣国から帰ってきた父に事情を説明をすると信じられないことに取り乱して『すぐにヴィヴィアンの捜索をしろ!』と命じたのだ。


(放っておけばいいものを……!)


死の森に飲み込まれたら戻ってこられない。

騎士達は恐る恐るヴィヴィアンの捜査に向かうものの、彼女が見つかるはずもない。


(ははっ、あれだけの致命傷を与えたんだ。生きているわけがないのに父上はヴィヴィアン、ヴィヴィアンと。ありえないだろう?)


やはりヴィヴィアンは見つからずに、死の森に向かった騎士の中で何人かの行方不明者が出て捜索は打ち切られることになる。

確かにヴィヴィアンの力で病を治せなくなったことは痛手だが、それだけだ。

父の焦った表情と妙に騒がしい大臣達に違和感を感じていた。


ヴィヴィアンがいなくなり一週間ほど経つと、ジェラールは事の重大さに気付かされることになる。

国民や貴族達は『ヴィヴィアン』がいなくなったことに対して説明を求めた。

「やはりこうなってしまったか」

父の言葉の意味を理解するのと同時に危機感を感じていた。


ヴィヴィアンが消えたことについて説明を求める声で国中は溢れかえっていた。

ヴィヴィアンの癒しの力、つまり病が治せなくなった恩恵が受けられなかったことや、アンデッドに対する大きな不安を感じているようだ。


マイケルやモネ、アンデッドやいるかどうかもわからない冥王のせいにして乗り切ろうとしても、矛先はヴィヴィアンを守れなかった王家やジェラールに向いていく。

『何故、ヴィヴィアン様を守ってくださらなかったのですか!?』

『ジェラール殿下、説明してください!どういうことですか!?』

涙ながらに責められて言葉を返せなかった。

ジェラールはヴィヴィアンを守れなかったと謝ることしかできないし、頭を下げる日々が続いた。


(どうして僕がこんな屈辱を受けねばならないのだっ!)


国中にヴィヴィアンの訃報が知れ渡る頃には大混乱だった。

ジェラールはヴィヴィアンの婚約者で彼女を心から愛していた演技をしなければならず、なかなかベルナデットとの婚約に踏み切れない。

それにはベルナデットとスタンレー公爵も予想外のようで戸惑っているようだった。

もし今、ベルナデットとの結婚を提案しようものならどうなるか……考えなくてもわかる。


「また幼い頃のように病になってしまったら……っ!だが鍵さえこちらにあれば絶対に大丈夫だ。鍵さえあれば……呪いが解けることはない」


父は部屋を歩きながら、ブツブツと何か意味の分からないことを言っている。

しかし一つだけわかることがあった。

それはヴィヴィアンの指に絡め取られた金色の鍵のことだ。


幼い頃から父に何度も何度も言われていた。

『ジェラール、この鍵だけは何があっても手放してはならない。絶対だ』

この鍵が結局なんなのかはわからない。

わからないけれど、父の必死な様子にジェラールは頷くしかなかった。


成長してこの鍵は何なのか問いかけると『この鍵を無くした時、国が滅びると思え』そう言われてジェラールはゾッとした。


だからこそジェラールは父に鍵を無くしたことを言えなかった。

このことが父に伝わればどうなるのか。


(だが、あの鍵はヴィヴィアンと共に死の森に沈んだんだ。永遠に無くなったのと同じだろう?)


幸い、今はジェラールがまだ鍵を持っていると思っているのだろう。


(この件が落ち着いたら話せばいいさ!)


それに何故かはわからないがアンデッドはヴィヴィアンがいなくなったのと同時にグログラーム王国に現れなくなる。

最後にヴィヴィアンが役に立ったのかもしれない。

そう思って嘲笑っていたジェラールだったが、ふとした瞬間にヴィヴィアンの優しい笑みが浮かぶ。

そして、まるで呪いのようにジェラールを蝕んでいくのだ。


ヴィヴィアンを死の森に投げ捨ててから二か月で国民の怒りや焦りは王家だけでなく、死の森へと向いた。

どんどんとジェラールの予想外のことが起こってしまう。


国民達の勢いは止まらずに毎日、死の森を今すぐ燃やせとデモが起こり続けている。

それだけヴィヴィアンの影響は計り知れないほどに大きいようだ。

ヴィヴィアンは朝から晩までどこかに行っていた。

ヴィヴィアンがいない時間を狙い、ジェラールはチャンスだと思いベルナデットと共に過ごして愛を育んでいた。

しかしその間、ヴィヴィアンは民からの信頼を勝ち取っていたようだ。


ヴィヴィアンを消しさえすれば、全てがうまくいくと思っていたが、その影響はジェラールの想像を超えて二人の愛を邪魔してくる。

最近はどこに行っても人の目に触れてしまうためベルナデットとの時間はなくなっていた。

国王も対応に追われてヴィヴィアンに肩入れしなければいけない状態だった。


もう頭を下げて謝罪し続ける日々はごめんだ。

故にジェラールはその国民の意見に賛同しないわけにはいかなかった。

『ヴィヴィアンを奪った死の森を焼き払え』

そんな意見に後押しされるまま、ジェラールは騎士達を連れて死の森へと向かう羽目になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る