第44話 ジェラールside2


(どういうことだ!?何故、僕がヴィヴィアンのためにこんなことをしなければならないっ)


ジェラールは早くベルナデットと結婚したいと思っていた。

ずっとベルナデットは一途にジェラールを想い続けてくれている。

あんなに素晴らしい女性は他にいない。

今はスタンレー公爵邸で心の傷を癒していることになっている。

以前よりもベルナデットとの距離は遠くなり、気軽に会えなくなっていく。


(早くベルナの願いを叶えてあげたいのに……ヴィヴィアンめ。死んでまで僕たちを苦しめるとは)


死の森へと向かったがいいが、目の前には吸い込まれそうなほどに不気味な闇がある。

ジェラールは今までに感じたことのない恐怖に襲われていた。


(こんな場所に王太子が来るなど、ありえないだろう!?)


まるでヴィヴィアンの方が大切だと言わんばかりの態度に腹立たしくて仕方ない。

それにジェラールはベルナデットではなくヴィヴィアンを愛している演技をしなければならない。

今日まで嘘をつき続けて、自らの首を絞めているような感覚に息苦しさを感じていた。


(最近、アンデッドは出ていない。だから大丈夫なはずだ)


剣を持ち覚悟を決めて死の森に一歩、足を踏み入れようとした時だった。


見覚えのある白銀の光が目の前を素早く通り抜ける。

カーテンのように薄く広がる白銀の光に触れようと手を伸ばすと、見えない壁に阻まれていることに気づいて呆然とした。

ジェラールはこの光をよく知っている。

この光を出せる人物をたった一人しか知らない。


(まさか……そんなわけない!ヴィヴィアンは僕がこの剣で確かにトドメを刺した。間違いないっ)


結局、不思議な力で阻まれてしまい死の森に立ち入ることはできなかった。

そんな時、森の中で雰囲気は違うが顔が同じアンデッドが二体現れる。

ジェラールはすかさず国民の怒りをそいつらに擦り付けることに成功した。


しかし白銀の光を見た者が『ヴィヴィアン様は生きているのではないか』『アンデッドに利用されているのではないか』様々な憶測が飛び交う結果になる。

中でもヴィヴィアンが生きているという説から希望を見出している馬鹿な奴らがたくさんいた。


(ヴィヴィアンが生きているわけがない……!)


しかし死の森に捨てたことを考えれば、ヴィヴィアンである可能性もあるのではないか。

周りにそう言われ続けるせいで、そうではないかと思ってしまう。

そう考えてジェラールはありえないと首を横に振る。


グログラーム王国の国民はジェラールが思った以上にヴィヴィアンを慕い愛していた。

その怒りをアンデッド達に向けさせることには成功したが、もしこの怒りが自分に向くと思いたくはない。


(クソッ……どうしてこんなことに)


周囲はジェラールに同情しているため、思ったように身動きができない。

ヴィヴィアンを愛しているフリ、ヴィヴィアンを思い悲しむフリ……徐々に怒りが湧いてくる。

いつまでもヴィヴィアンに縛られるのは辛い。


(このままではいつまで経ってもベルナと結婚できないではないか!ヴィヴィアンの死体が見つかれば満足だとでもいうのだ!?目の前で死んだ姿を見ないと納得できないとでも!?)


いないのに追い詰められていく……そんな恐ろしい感覚に襲われていた。

しかしそんなジェラールをさらに追い込む出来事が起こる。



「──ジェラール殿下、聞いてください!お知らせしたいことがっ!」


「どうした?何か……あったのか?」



騎士の一人が飛び込むようにしてジェラールの部屋に入ってくる。

その顔には焦りや悲しみ、そして安心した表情が見える。

ジェラールは表面で取り繕いつつも、内心は苛立っていた。



「ヴィヴィアン様がっ!ヴィヴィアン様が……っ」


「ヴィヴィアン、だと?」


「死の森からヴィヴィアン様のご遺体が見つかったんです!」


「なっ……!?」



ジェラールは自分の耳を疑った。思わず目を見張り、騎士に向き直る。



「ヴィヴィアンが僕の目の前で死んでから、三ヶ月も経っているんだぞ!?」


「はい。ですがヴィヴィアン様のお体は綺麗に原型を保っているんです!」


「……っ!」


「こんな奇跡、ありませんよ!やはりヴィヴィアン様は神に愛されたお方なんだ」



騎士が祈るようにして嬉しそうに手を合わせている。



「い、いまヴィヴィアンはどこに?」


「ああ、やはりジェラール殿下もお会いしたいですよね?ですがヴィヴィアン様はラームシルド公爵邸に引き渡す予定だそうです」


「ラームシルド、公爵邸だと?」


「ヴィヴィアン様を失い、マイロン様も病に伏せておりましたが、これで気落ちしていたラームシルド公爵も元気になってくださるでしょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る