第41話



キーンやアーロの姿が見えたからか、ヴィヴィアンを殺した犯人にされたらしい。

それからマイケルとモネも悪く言っていたそうだ。

やはり民達にはヴィヴィアンは、マイケルとモネに騙されてアンデッドに喰い殺されたと伝わっているらしい。

そうすれば二人でヴィヴィアンを殺したこともバレないというわけだ。


(全部モネたちやアンデッドのせいにして、二人は仲良く結婚してハッピーエンドなんて、そんなうまい話があるわけないでしょう!?)


ヴィヴィアンの中から怒りが溢れ出していく。

それにヴィヴィアンを殺したのを大切な人たちのせいにするなんて、もっと許せそうにない。


ヴィヴィアンはギュッと手のひらを握り込んだ。

怒りからかいつもは冷たい皮膚が熱く感じる。



「……許せないっ!」


「ヴィヴィアン?」


「───絶対に許さないんだからっ!」



ヴィヴィアンが唇を噛んで立ち上がった。

ひたすら膨れ上がる怒りに荒く息を吐き出していた。



「ヴィヴィアン、落ち着け」


「落ち着いていられませんっ!わたしの大切な人たちをこんな風に言うなんて腹立たしいです!」



鼻息荒くヴィヴィアンが言って、思いきり手を握りながら怒りを抑えていた。

ヴィヴィアンが手のひらを開くと爪の跡がくっきりと残っていたがそれもスッと消えてしまう。

何度も手を握ったり開いたりするものの、冷たいまま変化はない。

ここで窓に映る自分を見て、あることに気づく。


(そういえばわたしやモネやマイケルは、どうしてアンデッドのままなの?)


サミュエルやキーンやアーロは変化があるのにヴィヴィアンたちだけは変わらない。



「ベゼル帝国の皆さんは魔法が解けたのに、わたしやモネ、マイケルはまだ人に戻れないまま……ですよね?」



しかしある考えが頭を過ぎる。



「も、もしかしてわたし達はずっとアンデッドのままなのですか!?」



そんなヴィヴィアンの言葉にマイケルとモネがショックを受けている。


「わ、私……元に戻れないの?」

「俺は一生このまま生きていくのか!?」


ヴィヴィアンも焦りを感じていた。

ベゼル帝国の人達は呪具の影響を受けたサミュエルの魔法によってアンデッドになっていた。


(なら、わたしたちは……?)


しかしサミュエルがゆっくりと首を横に振りながら口を開く。



「マイケルとモネはヴィヴィアンの力ですぐに元に戻るはずだ」


「……!」



サミュエルのその言葉にマイケルとモネは手を合わせて喜んでいる。

しかし二人は戻ると断言したが、ヴィヴィアンのことには触れていない。

ヴィヴィアンは恐る恐るサミュエルに問いかける。



「やっぱり、わたしは死んでからアンデッドになったから……もし元に戻そうとしたら死んでしまうのですか?」


「それについてヴィヴィアンに説明しなければならないことがある」


「な、なんでしょうか?」


「ヴィヴィアンは、自分がアンデッドだと思い込んでいるようだが……違うぞ」


「…………へ?」



ヴィヴィアンは耳に手を当てながら聞き返した。

サミュエルの神々しくも美しい容姿を横目で見ながらも、懸命に言葉を噛み砕いていた。


(アンデッドだと思い込んでいる……?つまりアンデッドじゃないってこと?でも指がポトリって落ちてくっついたし、肌も明らかに青白いのにどうして?)


ヴィヴィアンは眉を寄せながらサミュエルを見た。

しかし冗談を言っているような顔をしていない。



「わたしはあの二人に殺されてからアンデッドになってしまったから元に戻れないんですよね?」


「違う」


「あの二人に殺されて、この森に投げ捨てられてアンデッドになったんですよね?」


「そうではない」


「???」



ヴィヴィアンの目は点になっていた。

頭は理解できないのかしようとしないのか。

動かなくなったヴィヴィアンを見てサミュエルは小さく笑った後にヴィヴィアンの頭を優しく撫でた。



「アンデッドのようになってはいたが、力を使う度に薄まっていたはずだ。だから怪我もあまりしない方がいいと言った」


「えっ……でも、わたしは」


「ヴィヴィアンは初めから死んではいない」


「…………ん?」


「あの時、そのことを伝えていたはずだが……ヴィヴィアンは泣いていたから聞いていなかったのだろう」



ヴィヴィアンは裏切られたことに対して泣いていたし、自分がアンデッドになったことにショックをうけて、かなり取り乱していた。

あの時、ヴィヴィアンにまだ死んでいないことを伝えようとしていたが、ヴィヴィアンはサミュエルの話を途中で遮ってしまっていたらしい。



「つ、つまりは……?」


「簡単に説明するがヴィヴィアンは仮死状態でアンデッドになった。致命傷ではあったが自身の力で治療していたようだ」


「ほん、とに……?」


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