第40話
しかしサミュエルの目の前には何故か古びた南京錠と鍵があった。
嫌なものを感じたサミュエルは国王に問いかける。
「ハハッ……我らの勝ちだ!」
その瞬間、アンを人質に取られて剣が突きつけられているのを見て、サミュエルは魔法で攻撃することもできず動けずにいた。
そして南京錠を突きつけられた瞬間にサミュエルの視界は真っ黒に染まる。
ロキシーがサミュエルを助けるために南京錠を引き千切ろうとしたが時すでに遅し。
最後にアンが何かを叫び、泣いている表情だけが瞳に焼き付いていた。
『カエセッ……!』
その思いは強くサミュエルに残り、次に目覚めた時には記憶を失くしてしまう。
そして先ほど南京錠から出てきた禍々しいものに支配されてしまい、魔法でベゼル帝国を暗黒に染め上げて皆をアンデッドに変えたらしい。
苦しみの中でサミュエルの力は暴走して記憶を失い、自分を冥王と信じ込んでしまう。
その呪いは黒い泥となり時間と共に広がっていき森や帝国を侵食していった。
サミュエルほどではないが力が強いキーンやアーロ、ヴィヴィアンは意志が残り、他の人は意思がないまま森を彷徨う存在になってしまった。
一緒にいたロキシーは呪具のせいで、姿形が変わってしまったのではないか……そう語った。
(アン……?アンって、わたしのお母さんと同じ名前だわ)
ヴィヴィアンがそう考えた時だった。
「恐らくではあるが、ヴィヴィアンはアンの力を引き継いでいるのではないか?」
「……!」
「グログラーム王国では聖女と呼ばれていたようだが、本来グログラーム王国で魔法を使える者はいないだろう」
「アンさんは……どうなったのですか?」
「アンは……あの後、どうなったのか俺にもわからない。だがヴィヴィアンはアンと同じ光を感じる。妹のように思っていた。魔法が使える代わりに寿命が短いベゼル帝国の民たちにとってもアンの力は希望だったんだ」
そう言って、サミュエルは悲しげに瞼を伏せた。
サミュエルの話を聞いていると、どこか腑に落ちるものがある。
「サミュエル様、アンは母の名前です……!」
「母、だと!?ならアンは……まさか事故で?」
「はい。貴族の乗った馬車に跳ねられたんです。母はわたしを守って亡くなりました」
「…………そうか」
ヴィヴィアンの目に薄っすらと涙が浮かぶ。
サミュエルの記憶が戻るのと同時に、様々な真実が明らかになる。
「となれば、アンは病を治した後、利用されることなく王族の元から逃げたということか」
城から逃げ出した後に、力を隠したまま商家を営む父と結婚したのかもしれない。
まだヴィヴィアンが幼く、母のことは詳しくわからなかった。
グログラーム王国にいたアンはアンデッドになることなく、その力はヴィヴィアンに受け継がれたのだろう。
それにグログラーム国王がヴィヴィアンを見つけた後、スタンレー公爵を押し退けてまで、孤児院の出身のヴィヴィアンを大切に囲ったことも説明がつく。
(わたしのお母さんはベゼル帝国の人だったのね)
母が誰かを救おうとしてた理由を、ヴィヴィアンは今になって理解することができた。
『どうにかしてあの人を救わないと』
『ヴィヴィアンも手伝ってね』
そう何度も言っていたことを思い出す。
それはベゼル帝国とサミュエルのことではないのだろうか。
ヴィヴィアンの力に気づいて、帝国を元に戻そうとしていたのかもしれない。
しかしヴィヴィアンの両親は貴族の馬車に跳ねられて死んでしまう。
思い出さないようにしていた。悲しみと痛みと共に記憶の蓋が開く。
鮮明に思い浮かぶ映像にヴィヴィアンは目を見開いた。
ブラウンの髪に冷たい目をした男性と、モカブラウンの長い髪の少女の顔を。
その男性がスタンレー公爵と、一緒にいた少女がベルナデットと重なっていく。
「まさか、あの人達が……?」
ヴィヴィアンは両親を轢いた人達が、ヴィヴィアンを裏切ったベルナデットとその父親のスタンレー公爵ではないかということを話していく。
ヴィヴィアンがショックから呆然としているとキーンが口を開く。
「ヴィヴィアン様が人間を弾く結界を張っている間、お二人にジェラール・エット・グログラームと名乗る人間が、ヴィヴィアンを陥れたこの森を許さないと……叫んでいました。ベルナデットもそう思っているとかいないとか」
「ジェラール殿下が?」
「たいそうな理由を並べていた。それこそヴィヴィアン様と真逆のことを言っていましたよ」
「……っ、説明してください!」
キーンのヴィヴィアンに対する丁寧な態度も気になるところだが、ジェラールとベルナデットの行動に怒り心頭なヴィヴィアンはキーンに掴み掛かるようにして問いかけた。
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