第36話
サミュエルに付き添っているキーンもキャラメル色と黒の髪が全てがキャラメル色に。
アーロもオレンジ色になっていることに今更になって気づく。
「うっ……」
呻き声が聞こえて、ヴィヴィアンは腰を屈めてベッドに寝ているサミュエルの様子を見つつ名前を呼んだ。
「サミュエル様、サミュエル様……大丈夫ですか?」
「ヴィヴィ、アン?」
サミュエルはこちらに向かって手を伸ばしている。
震える手を掴んでヴィヴィアンは祈るように手を合わせた。
「サミュエル様、どうしてこんなことに……」
額には汗が滲み、苦しんでいるように見える。
何が起こっているのかわからないが、こんな風に苦しんでいるサミュエルを放っておけないと、そう強く思うのだ。
それはキーンとアーロも同じようだ。
「キーンさん、アーロさんまで……どうして髪が変化しているのですか?」
「わからない。だが、体の中の何かが変わっているような気がする」
「え……?」
「ヴィヴィアンちゃんの力も関係しているんだと思う」
「わたしの、力が?」
そんな時、黒猫がサミュエルのそばへと歩き出す。
カチャリと南京錠が音を立てる。
そしてベッドの上へとジャンプすると寄り添うようにサミュエルの頬をペロリと舐めた。
「どうしたの?」
黒猫はヴィヴィアンをまっすぐ見ながら、その場に座り込んでしまう。
まるでここが自分の居場所だと言わんばかりのアピールっぷりだ。
サミュエルは額に玉のような汗を浮かべながら眉を顰めている。
ヴィヴィアンは持っていたハンカチで彼の額を押さえた。
そんな時、ドンドンと扉を叩く音が響く。
「──大変ですっ!」
「どうした!」
「グログラーム王国の騎士たちが騎士を集めて森に入ろうとしています!」
「なんだと!?」
マイケルが慌てた様子で部屋に入り込んでくる。
壁を治す材料を探していると声が聞こえて様子を見ていたそうだ。
ヴィヴィアンはグロラーム王国の人間と聞いて驚いていた。
それと同時に森を侵略して国土を広げに来たのだとと思った。
今までアンデッドたちに阻まれて死の森に立ち入ることは許されなかった。
かなりの大部分を死の森に覆われていることをグログラーム王国の上層部が不満に思っていたとをヴィヴィアンは知っている。
今の国王は保守的で、死の森へ絶対に近づいてはならないと言っており『冥王に近づけば、呪いを受ける』と手を出さない選択をしていた。
次期国王であるジェラールは真逆の考え方だ。
死の森を壊すことで将来的にはベゼル帝国があった土地を手にしようと目論んでいる。
そしてスタンレー公爵もグログラーム国王のやり方に不満を募らせていた。
いつもは紳士的なジェラールの荒々しい考えを意外に思っていたが、ベルナデットとの会話を聞けば納得できる。
ヴィヴィアンの前での姿が偽物なのだ。
(こんなことをするのは、ジェラール殿下とスタンレー公爵だけじゃないかしら)
キーンやアーロたちの話によると、ヴィヴィアンの力のおかげか屋敷周辺にはアンデッド達は近寄らなくなった。
この屋敷があるのはグログラーム王国からほど近い場所だ。
ということはヴィヴィアンがここにきてからグログラーム王国の被害はなくなっていたのではないだろうか。
ヴィヴィアンは立ち上がった。
もちろん死の森と呼ばれるこの場所を……サミュエルを守るために自分が今、やるべきことをやるべきだと思ったからだ。
「クソッ、サミュエル様がこんな状態の時にっ」
サミュエルを見て心配そうにしている二人を見て、ヴィヴィアンはある提案をする。
「キーンさん、アーロさん……!わたしに任せてもらえませんか?」
「ヴィヴィアンちゃん?」
「わたしがこの森を守ります!」
「守る……?どうやって?」
「あの小屋を見つけた時に、なんとなく感覚を掴んだんです。わたしはあの黒い泥が入ってこないようにしていた。だから逆にグログラーム王国から人が入り込まないように森に面している部分に壁のようなものを張れると思うんです」
「……!」
「せめてサミュエル様が目を醒ますまでは、わたしが絶対に守りますから」
アーロは「ヴィヴィアンちゃん、本当にありがとう」と言っている。
キーンも静かに頭を下げた。
「モネとマイケルは小屋に行って動物たちを落ち着かせて!」
「「はい!」」
二人が動き出したのを確認してヴィヴィアンも屋敷の外に出てからグログラーム王国の方へ向く。
あの時と同じように膝をついて手を合わせてから深呼吸をする。
(今のわたしにならできるはずだわ。黒い泥を弾く要領でやれば、うまくいくはず……!)
ヴィヴィアンの目の前に白銀の光が溜まっていく。
今までグログラーム王国の聖女として働いていたヴィヴィアンだが、アンデッドになった今では人を弾くために力を使うとはなんとも皮肉な話だが、今はサミュエルや死の森に住んでいる大切な人たちを守りたいと強く思う。
(ここには……誰も入らせないわ!)
ヴィヴィアンは目を閉じて祈り続けた。
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