第35話

サミュエルと共に暗い森に足を踏み入れる。

いつもの道を歩いていくと、白い花が咲いている範囲がどんどんと広がっていることに気づく。


(よかった……わたしがいなくなっても黒い泥に飲み込まれないみたい。動物たちも嬉しそう)


黒い泥がなくなって歩きやすくなり、森も明るくなりつつあるような気がした。

瓦礫が積み上がり小屋があった場所に行き、ヴィヴィアンは『あるもの』を探していた。


(確か……この辺にあるはずなんだけど)


ヴィヴィアンは潰れた箱の中にあった金色の鍵を取り出した。


(よかったわ!あの時、投げ捨てたりしなくて……!)


ジェラールに剣で刺された時に、手を伸ばしてたまたま握り込んだ金色の鍵をヴィヴィアンは見つめていた。


(この鍵……ジェラール殿下がいつも肌身離さずに持っていたものよね)


その鍵をサミュエルの元に持って行こうとした時だった。

潰れた箱の隣にある見覚えのある黒いプルプルとした塊に気づく。



「あっ……!」



ヴィヴィアンはそして両手でそっと掬い上げるようにして黒い塊を持ち上げた。



「ヘドロさん!ああ、よかったわ……!久しぶりね」



感動の再会とはいかずに、どうやら元気はないようだ。

ぬるぬると体を揺らした後にペチャリとへたりこんでしまった。

するとヘドロはヴィヴィアンの腕を這うように移動して肩に乗る。



「ヴィヴィアン、探し物は見つかったか?」


「はい!あとヘドロさんがいたんですよ」


「ヘドロ……?黒猫を探していたのではないのか?」


「黒猫もなんですけど、ここに来たばかりの時にわたしを助けてくれた恩人なんです。今までどこに行っていたの?」



相変わらずプルプルと体を動かすだけで意志の疎通はできそうにない。

ヴィヴィアンは自分の力で命の恩人であるヘドロを消していなかったことに安堵していた。

その後、ヴィヴィアンはいつもの日課である黒猫を探す。

しかし黒猫の姿はない。



「あの黒猫はどこに行ってしまったのかしら」


「……」



サミュエルはヘドロを見つめていたが、すぐに視線を外してしまう。



「サミュエル様、どうしたのですか?」


「いや、なんでもない…………痛っ」



サミュエルは額を押さえている。



「サミュエル様、頭が痛むのですか?」


「あぁ、何故だろう。最近は痛みを感じなかったのに」


「そろそろ腹部の治療をしましょう!それで全てのアザは治りますよね?」


「そう、だな」


「顔色が悪いですよ……?今日はゆっくり休んだ方がいいと思います。帰りましょう」


「そうさせてもらう」



サミュエルを支えるようにヴィヴィアンは肩を貸した。

何故か治療を重ねるうちに黒い煙は灰色へ。

そして白くなり煙自体上がらなくなっていく。


煙が変化する度にサミュエルとヴィヴィアンの距離も近づいていくような気がしていた。

煙が上がらなくなり、触れる回数が増えていく。


それが何を意味するのか……この時はまったく理解していなかった。


結局、黒猫に会うことはできずにヴィヴィアンは真っ黒なヘドロを持って屋敷に帰った。

サミュエルの部屋で今日の治療を終えてから、ヴィヴィアンはヘドロと共に部屋に戻る。

中に入ると元気がないように見えたヘドロは嬉しそうに揺れはじめた。

ヘドロをサイドテーブルに置いて、再会を喜んだ後に今まであったことを興奮しながら話していた。


そしてヴィヴィアンが空腹を感じて飲み物や果実を取りに向かい部屋に戻ると驚くべきことが起こる。

扉を開くとプルプルした黒い塊ではなく、黒く艶やかな毛としなやかな体が見えて目を見張る。



「え……?」



ニャアという可愛らしい鳴き声と共にヴィヴィアンの側に体をすり寄せている。

猫が体を動かすと首輪と共に金色の南京錠がカチャリと音が鳴った。



「今まで一体、どこにいってたの?探したのよ!?」



そんな言葉も聞き流すように、部屋の周りの自由に動き回っている。



「あっ、そうだ……あれ?」



今度はヘドロがいなくなっている。

部屋の隅から隅を探しても見当たらないことにヴィヴィアンは首を傾げた。


(もしかしてこのヘドロが黒猫に……?そんなわけないわよね。だって姿形や大きさが違うんだもの)


ヴィヴィアンは目を細めながらを見ながら観察していた。

絶対にないと思いつつも、もしかして……という考えが頭をよぎる。


すると大きな足音が聞こえてくる。扉が割れてしまいそうなほどに叩く音。

ヴィヴィアンが「はい!」と返事を返すと、慌てた声が聞こえるのと同時に扉が開く。



「ヴィヴィアンちゃん!大変だっ!」


「アーロさん、どうしたんですか?」


「いいから来て!今、キーンが付き添っているんだけど大変なんだっ」



アーロに腕を引かれるまま足を進めていく。

そこにはサミュエルの寝室の前だった。



「サミュエル様に何かあったの?」


「そうなんだっ!ヴィヴィアンちゃんに見てもらった方が早いんだ!」


「わ、わかったわ」



寝室へと足を踏み入れると、ベッドに寝ているサミュエルの姿があった。

ヴィヴィアンがアーロに急かされて一歩ずつ前に進めると……。



「え゛っ……!?」



なんとサミュエルの髪が頭頂部から耳の辺りまで金色に染まっていることに気づいて唖然としていた。



「どういうこと……?」


「オレたちもさっき髪色が変わっていることに気づいたんだ」


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