第33話
「オレたちを心配させないようにしていたのかな」
「そうか。そんなことが……」
アーロとキーンは険しい表情を浮かべている。
「ですが、もう大丈夫だと思います。」
「「は?」」
「よくないものだとわかったので他のアンデッドたちのように治療してみたんです。時間はかかりましたが、うまくいったみたいで」
「「…………」」
呆然としている二人はヴィヴィアンを見ている。
「あの体に巻き付いている禍々しいものを消したというのですか!?」
「はい。時間はかかりましたけど」
「……信じられない」
「ですが痛みは強いみたいで、今はこうして休んでいます」
ヴィヴィアンがそう言って汗ばんだ額を撫でるとサミュエルの瞼が薄っすらと開く。
「サミュエル様、気分は大丈夫ですか?」
「ああ……信じられないくらい腕が軽い」
「よかったです」
「ヴィヴィアンのおかげだ。ありがとう」
いつもより少しだけ柔らかくなった表情、サミュエルの安心した笑みを今、初めて見だような気がした。
こちらを見つめる瞳の変化に気づいて驚いていた。
「サミュエル様、瞳が……」
金色の瞳が半分ほど赤くなっていたはずなのに金色に戻っており、片方の赤かったはずの反対側の目が半分、金色に戻っている。
「サミュエル様、瞳が赤色から金色になっていますけど元々は金色なのですか?」
「……!」
サミュエルは驚いた様子で片手で頬を押さえている。
「このまま黒いアザを治療していけば、痛みもよくなるかもしれませんね!」
「……?」
「動物たちも体の色が変わったり、目が優しくなったりした子もいるので」
小屋で動物たちを治療をすると明らかに変化があった。
それは纏う雰囲気や姿形も大きく変わっていったということだ。
「ねぇ、ヴィヴィアンちゃん……もしかしてオレ達も変わるのかな?」
「え……?」
「オレやキーンにも、そういうのあるから……」
「そうなのですか!?」
「もし治るなら治したいんだよね」
「言って下さればよかったのに!」
「治そうっていう考えがなかったっていうか……そう思えることもなくて」
「まぁ、そういうことだ。そっ、それに治るに越したことはないからな!」
キーンもメガネをガチャガチャと忙しなく動かしている。
アーロの瞳もヴィヴィアンの様子を窺うように大きく揺れていた。
「わたしに任せてくださいっ!皆さんのためなら頑張りますから」
「ありがとう、ヴィヴィアンちゃん!」
「…………」
「ほら、キーンも」
「もし治し終わったら礼をたっぷりしてやらなくもない!治せたらなっ!」
「素直じゃないなぁ、キーンは」
喧嘩を始めた二人に苦笑いを浮かべていると、体を起こしたサミュエルがヴィヴィアンの手を取る。
不思議と黒い煙は少しだけ色が薄れているように思えた。
「恩に着る。ヴィヴィアン」
「はい……」
サミュエルの言葉にヴィヴィアンは頬を染めてから頷いた。
あれから一カ月が経とうとしていた。
それから毎日、三人の治療を行いつつも屋敷の修繕も行っている。
ヴィヴィアンは毎日忙しなく動き回っていた。
疲れを感じないというのはアンデッドの体だからだろう。
それに外も薄暗いままで、正直時の流れがいまいち把握できない。
好きなことを好きなだけして、アンデッド達を助けつつ、サミュエルやアーロ、そしてあのキーンからも感謝されるようになる。
「お前のおかげで体が楽だ。それにアーロが毎日、楽しそうにしている……お、お前には感謝しているんだからなっ!」
キーンは顔を真っ赤にして、高速で眼鏡をカチャカチャしながら手を動かしていた。
「ヴィヴィアンちゃんはサミュエル様にとっても、なくてはならない存在だよ」
アーロにもそう言われて、ヴィヴィアンはなんだか照れてしまう。
ジェラールのことなどすっかりと忘れて、今はサミュエルのことで頭がいっぱいだった。
もしかしたらマイケルとモネの二人にも効果があるのではと試してみると大成功。
マイケルとモネの二人は見た目もぐっと人に近づいて、言葉を話せるようになるまで回復した。
「モネ、今日は屋敷周りを少し綺麗にしようと思うの。付き合ってくれる?」
「もちろんです。ヴィヴィアン様」
廊下を歩いているとマイケルが穴の空いた屋敷の壁を修繕している。
「マイケル、ご苦労様。ちゃんと休まないとダメよ?」
「この体だと無理しすぎてしまいますね。ヴィヴィアン様の言う通り、ちゃんと休みますよ!」
マイケルに手を振ると、アーロがキーンと共に森の地図を広げている姿が見えた。
どうやら二人でアンデッド達の管理について話し合っている。
やはりアンデッドたちはヴィヴィアンから逃げるように森の端へと移動しているらしい。
そのことについて、気になったヴィヴィアンはマイケルとモネについて聞いてみた。
何故、アンデッド達はヴィヴィアンを避けるのか……返ってきたのは意外な言葉だった。
「マイケルもモネは、どうしてわたしから逃げようとしたの?」
「ヴィヴィアン様だから避けようとしたわけではないんです」
「え……?」
「なんとなくしか覚えてないんですけど……とにかく眩しくって」
「眩しい?」
「太陽の光に直接、焼かれているような感覚といいますか……だから逃げないといけないって思ったんですよ」
「太陽?」
死の森には太陽はない。
しかしヴィヴィアンがいる場所は光り輝いており、近づいてはいけないと訴えていたそうだ。
「恐らく、その輝きは増しているのだろうな」
「ヴィヴィアンちゃんの力が強まっているんじゃないかな?」
いつの間にか背後にいたキーンとアーロは目の前に地図を広げた。
アンデッドが日に日にこの屋敷から離れるように移動していることがわかるものだった。
(わたしって、そんなに眩しいのかしら……)
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