第32話
ヴィヴィアンはポカンと口を開けていたが、次第に顔が真っ赤になっいく。
モネが裂けている口を押さえながら、キャッキャとはしゃいでいる。
(……なんだったんだろう)
ヴィヴィアンは不思議な気持ちでサミュエルの後に続いたのだった。
屋敷に戻ると草木を片付けていたマイケルが慌てた様子で濡らした布を持ってくる。
汚れた部分を綺麗にしてから、マイケルにもう一枚綺麗な布をもらい、ヴィヴィアンはサミュエルの元に急いだ。
(サミュエル様も汚れてしまったもの!わたしがよそ見をして転んでしまったせいで……)
そう思ってもサミュエルの姿はもうなくなっていた。
ヴィヴィアンが不思議に思っていると、モネがサミュエルの部屋を指さしている。
「サミュエル様はお部屋に?」
「アー!ウーッ」
「行ってくるわ」
ヴィヴィアンは屋敷の中に入りサミュエルの部屋へと向かう。
サミュエルの部屋をノックすると、小さく返事が聞こえてくる。
ヴィヴィアンが扉を開けると彼は黒いシャツを脱いでいて上半身が露わになっていた。
怪我を治す時に男性の上半身は見慣れているはずなのに、何故かサミュエルの体は直視できない。
ヴィヴィアンは思いきり視線を逸らしながら、彼に向かって手を伸ばす。
「ご、ごめんなさいっ、サミュエル様!綺麗な布をっ……!袖の、シャツの汚れをですね」
「…………ヴィヴィアン?」
「わ、わたしはいつだって落ち着いてますからっ」
「そんなに醜いだろうか?」
「えっ?」
サミュエルの言葉が気になり、ヴィヴィアンは顔を上げる。
彼の上半身、肌には夥しいほどの黒いアザが這うように体全体を巻き付いているではないか。
「……っ!?」
ヴィヴィアンは思わず息を呑んだ。
明らかによくないものだと一目見ただけでわかる。
無意識に一歩、また一歩と近づいてサミュエルのアザに手を伸ばした。
サミュエルはその様子をただ黙って見つめている。
ヴィヴィアンが指先で触れると、そこから指がポトリと落ちてしまう。
「───ッ!?」
今はすぐに元に戻るが、アンデッドになった体でもサミュエルの体に渦巻いているものは消えはしない。
落ちた指を適当にくっつけながら、ヴィヴィアンはサミュエルに問いかける。
「サミュエル様、これは……?」
「わからない」
「いつからですか?」
「気づいたら共にあった」
「痛みや苦痛を感じないのですか?」
「……。激しい痛みを感じる」
ヴィヴィアンはその言葉を聞いて目を見開いた。
そしてサミュエルがいつも感情が薄くて動きが鈍い理由がわかってしたからだ。
この苦痛に耐えていれば反応も鈍くなるのではないか。
(サミュエル様はこの状態で眠れているの……?)
ヴィヴィアンは手を伸ばしてサミュエルの頬を撫でた。
黒い煙は立ち上るものの、ヴィヴィアンに影響はない。
いつもは照れてしまい、サミュエルと目を合わせることはできないが今日は違う。
悪い部分を見つけるようにヴィヴィアンは体を見る。
(体全体がもう黒いアザに覆われている。残っているのは手首足首、頭と顔だけなのね)
金色と赤色の瞳……金色の瞳は半分、赤く染まっていることに気づいて、ヴィヴィアンは目を見開いた。
(何かが……サミュエル様を蝕んでいるの?)
すぐにそう思ったヴィヴィアンはサミュエルのためにどうするべきか考えていた。
(もしかしたら他のアンデッド達のようにサミュエル様を救えるんじゃない?けれどもし失敗してしまったら……?わたしのように戻しても死体に戻ってしまうの?ううん、アザだけを取り除いてあげればいいじゃない!)
それにヴィヴィアンの勘は、今すぐ力を使った方がいいと訴えかけている。
「サミュエル様、わたしに提案があります」
「……?」
「この黒いアザを治したいのです。わたしが持つ力で」
「治す?これをか……?」
「はい。森にいた動物たちのようにしてみたいんです。それにこれは今すぐに治た方がいいと思います!試してみてもいいでしょうか?」
「…………頼む」
サミュエルの言葉にヴィヴィアンは白銀の光を溜めて、彼の腕に光を当てた。
バチバチと雷が弾けるような音がして、一旦手を離した。
手のひらが焼け焦げて、意思を持っているように強く抵抗しているようだ。
サミュエルを見ると、痛みに顔を歪めている。
「サミュエル様、大丈夫ですか!?」
「あぁ……なんとか」
「かなり痛みますよね?」
「…………」
サミュエルの額からは滝のような汗が流れている。
ヴィヴィアンは一旦、手を離すと布でサミュエルの汗を拭う。
瞳は大きく揺れているが、サミュエルもこれを取り去りたいと思っているのだと感じた。
ヴィヴィアンは腕の部分だけでも浄化しようと力を込めていく。
しかしヴィヴィアンの方が勝るのか黒いアザは端から消えていく。
サミュエルの腕にあるアザを全て消し終わったのを確認してヴィヴィアンは手を離す。
サミュエルから力は抜けて疲れてグッタリしている。
肩を貸しながらサミュエルをベッドに運ぶ。
しかし彼の腕を綺麗に浄化できたことにホッとしていた。
サミュエルの黒髪をそっと撫でていると、彼の異変を感じたのかキーンとアーロが慌てて部屋に入る。
ヴィヴィアンは今まであったことを二人に説明する。
悔しそうに唇を噛むキーン、アーロも悲しそうな表情で目を伏せている。
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