第30話


ヴィヴィアンは真っ暗な森を眺めながら考えていた。



「マイケルもモネもどうしているのかな。心配だわ」


「……」




そんな何気ない会話をサミュエルとした数日後のことだった。


サミュエルがアーロと城に人の形をしたアンデッドを連れてきてくれた。

ヴィヴィアンは初めて本物のアンデッドというものを目にしたのだが……。




「ア゛ァァー……!」


「……ウガァ」


「ヴィヴィアンが探しているマイケルとモネはこのアンデッドではないのか?」


「…………」


「ヴィヴィアン?」


「~~~ッ!?!?!?」 



初めて人の形をしたアンデッドを見たヴィヴィアンはあまりの恐怖に泡を吹いて気絶をした。


意識が遠のいた後に、サミュエルの声が響く。



「──ヴィヴィアン、ヴィヴィアン」


「あれ……サミュエル、様?」


「大丈夫か?」


「は、はい……わたし、どうして?」



そしてヴィヴィアンは再びサミュエルに抱えられて目を覚ますことになる。

体を起こしてみると、アーロが二人のアンデッドを押さえている。


二体は人の形はなんとか保っているものの、どろどろに溶けた青白い皮膚。

ボロボロの布を纏い、よくわからない言葉を発している。

思わず口元を押さえた。

マイケルとモネだと言われたことを思い出して、改めて二人を見る。

確かに服装や髪型など面影が残っている。


(どうしてこんなことに……!)


巻き込まれて死の森に連れて行かれたことに加えて、こんな姿にさせたジェラールとベルナデットに強い怒りを感じていた。


ヴィヴィアンと同じく黒い泥に飲み込まれてアンデッドになってしまったようだ。

しかしヴィヴィアンたちとは違い、意思がないように見える。

名前を呼んでみても『カエセ……カエセ』と譫言のように繰り返すだけ。

二人はヴィヴィアンに背を向けて必死に逃げようとしている。



「やはりヴィヴィアンから逃げようとしているな」


「森が静かだったのも、やはりそういうことなんですかね」



サミュエルとアーロはやはり人の形をしたアンデッド達がヴィヴィアンを避けるように動いていることを不思議に思っているようだ。

ヴィヴィアンはマイケルとモネに声を掛ける。



「マイケル、モネ、わたしを覚えていないの?」


「ア゛ァァ……」


「ヴゥー!」


「ごめんなさい……本当に」



ヴィヴィアンは痛ましい姿に涙を流していた。

けれど、あの時は言えなかった言葉を今なら伝えることができるからだ。

ヴィヴィアンは暴れる二人に震える手を伸ばして抱きしめる。


(二人を救いたい……また以前の二人に戻って!)


そう思いながら二人に触れた瞬間、辺りを白銀の光が包み込んだ。



「え……!?」



驚いたヴィヴィアンが二人から手を離す。



「マイケル……?モネ?」



ヴィヴィアンが名前を呼ぶと何故か憑き物が落ちたかのように、ヴィヴィアンから逃げることをやめて驚きつつも、じっとこちらを見つめている。



「アーアーッ!」


「ウーッ!ウゥッ」



「アー」「ウー」しか言わないが、彼らが何を言っているか何となくヴィヴィアンにはわかるような気がした。

わずかに動く表情にヴィヴィアンの目からは次々と涙が溢れていく。

そしてヴィヴィアンに伸ばされたマイケルとモネの手を取り頬に当てた。


暫くそうしていたが、二人はもうヴィヴィアンから逃げることはもうなかった。

ぎこちないが笑みを浮かべてくれている。

どうやらヴィヴィアンのことを思い出してくれたようだ。


こうしてマイケルとモネと再会を果たすことができたヴィヴィアンはわざわざ二人を探し出してくれたサミュエルとアーロに御礼を言って深々と頭を下げる。

するとマイケルとモネは何かを訴えかけてくることに気づく。



「アーッ!アーアーッ!」


「……え?」


「ウウッ、アァー」


「本当に?」



マイケルとモネを身振り手振りでヴィヴィアンと一緒にいたいという意思表示をしてくれているようだ。



「サミュエル様、マイケルとモネと一緒にこの屋敷で暮らしてもいいですか?その代わりに皆で働きます!」


「ああ、別に構わない」


「ありがとうございます!」



マイケルとモネと手を合わせて喜んでいた。

サミュエルとアーロはその様子を見て驚いている。

先ほどまで意味のない言葉を発していたマイケルとモネに意思が戻ったからだろう。


アーロが慌ててキーンを呼んでくる。キーンも驚いた様子を見せた。

もしかしたらヴィヴィアンの力は元通りとまではいかないまでも、アンデッド達までも意思を引き出す力があるのではないか、そんな結論に至る。


そしてマイケルとモネは屋敷で暮らすことになった。

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