第27話
先ほどのサミュエルの部屋以外は手入れもされずにガラスが割れていて吹き込む風。
一週間前に寝かされていたあの部屋はヴィヴィアンが使っていいそうだ。
(もしかして誰かがアンデッドになる度に、ずっとそうしてきたのかしら……)
それにサミュエル達に仲間に引き摺り込んでやろうとか、アンデッドになったら従えというような高圧的な態度もない。
ヴィヴィアンの頭に疑問が思い浮かぶ。
(アンデッドって、何のためにいるんだろう……?)
ヴィヴィアンはふと、グログラーム王国の人間だったらどうだろうかと考えていみた。
アンデッドは絶対悪で話を聞かずに排除しようと動いている。
そう思うとヴィヴィアンにはこの場所が温かい場所に思えて仕方ない。
そして前を歩くサミュエルを見つめながら思っていた。
(わたしはサミュエル様やあの子達のために何ができるのかしら)
前を見て歩いていると、サミュエルが止まっていることに気がつかずに背中に激突してしまう。
「ゔぶっ!?」と言ったヴィヴィアンの声を聞いてか、サミュエルが振り返る。
鼻を押さえていると無表情ではあるが心配そうなサミュエルがこちらを見ている。
「大丈夫か?」
「はい、すみません……考え事をしていて」
「考え事?」
しかしその会話も黒い塊に遮られてしまう。
聞き取れない言葉を呟いている黒く積み上がった塊にヴィヴィアンは悲鳴すら上げられずにサミュエルにしがみつく。
サミュエルに触れていると上がる黒い煙よりも恐怖が勝っていた。
サミュエルも「追い払っても勝手に入ってきてしまうんだ」と言っている。
(わ、わたし……本当にここに住めるのかしら)
白い花畑が広がる小屋の中ではこんな風に得体の知れないものが入ってくることはなかった。
住んでいた森では黒い泥を取り除くと花畑があったり、小屋もとても綺麗だったことを思い出す。
そして先ほどのサミュエルの部屋も綺麗だった。
ヴィヴィアンにある疑問が頭に浮かぶ。
(もしかしてこのお城も綺麗にできたりするのかしら)
ヴィヴィアンはここを綺麗にしたら、この黒い塊がいなくなるのなら喜んで城を掃除しようと思った。
何より外の黒い泥のように広がっていくし、嫌な空気をヒシヒシと感じる。
ここでヴィヴィアンはいいことを思いつく。
「サミュエル様……あの!」
「なんだ?」
「ここに置いてもらう代わりに、この城を綺麗にしてもいいですか?」
サミュエルはヴィヴィアンの言葉に目を丸くしていたが、すぐに頷いた。
「構わない」
その言葉にヴィヴィアンはパッと表情を輝かせる。
「ありがとうございます。サミュエル様」
「あぁ」
「頑張りますね!」
長い廊下を抜けて、以前ヴィヴィアンが寝ていた部屋まで辿り着く。
中を覗くと、他の部屋よりはマシではあるがやはりボロボロであることに間違いない。
(今にも何かがが出てきそうだわ)
ヴィヴィアンがこの部屋を綺麗にしようとひび割れた窓を覆っているカーテンを開けようとした時だった。
プニッとした感覚と嫌な予感を感じて視線を向けると……。
『ギィエェエエ!』
「──キャアアアァアアッ!」
「…………」
急に叫び出した黒い塊に触れてしまったことにヴィヴィアンは大絶叫。
その後、ビクビクと怯えながらもサミュエルと共に部屋の掃除を済ませた。
話しかければ答えてくれるものの、サミュエルは物静かでヴィヴィアン達とは違う何かを見つめているような気がしていた。
小屋より広くて整った部屋を見て安堵していた。
サミュエルは「部屋に戻る。ゆっくりしてくれ」と言われて頷いた。
ヴィヴィアンはベッドに腰掛けて横たわる。
昨日までは動物達に囲まれていたせいで騒がしかったが部屋の中はとても静かだ。
そういえば黒猫の姿がないことに気づく。
小屋からご飯も食べずに出て行った後に、サミュエル達と入れ替わるようにして去って行ってしまった。
(心配だわ。ご飯もあげてないし、何も言わずに出て行ってしまったから。明日……小屋に見に行ってみようかしら)
ヴィヴィアンはそんなことを考えながら瞼を閉じた。
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