第26話

ヴィヴィアンが生まれる前からいるアンデッド。

本来、この森はベゼル帝国のものだったらしいが今は帝国、全てが死の森へと姿を変えた。


ヴィヴィアンもベゼル帝国を知る人に話に聞いただけだが、魔法を使うそうだ。

その中でもベゼル皇帝はとてつもない大きな力を持っており、隣国から恐れられていた。

今は帝国の全てが死の森に全て飲み込まれているらしいが、それを確かめたものはいない。

何故ならば、死の森に入れば自らもアンデッドになり戻ってきたものはいないと言われているからだ。


(死の森、グログラーム王国、ベゼル帝国、魔法、皇帝、アンデッド……それにカエセという言葉。何かが繋がりそうなんだけど)


ヴィヴィアンが考え込んでいると、アーロが声を上げる。



「ヴィヴィアンちゃんがきてからですよね?森が静かなのは」


「ああ、確かに」


「そう考えるとヴィヴィアンちゃんの力って面白いよね。本当にグログラーム王国の人間?」



そう言われてヴィヴィアンは自分の手のひらを見た。

自分ではいつも通りに力を使っていたつもりだが、何かが変わっているような気がした。

自身がアンデッドになったことで、持っていた力も何かしら変化が訪れたのかもしれない。


(自分がアンデッドになったから力も変わったのかしら?でも姿が元に戻るってことは……)


だがサミュエルとアーロとキーンに関しての黒い煙は一体、なんなのか説明できない。

まるでヴィヴィアンの力を拒絶しているようではないか。


(触れるだけで黒い煙が出るってことは、力を使ったらどうなるのかしら)


ヴィヴィアンが考え込んでいるとアーロの手が肩に触れた。

何かが蒸発するような黒い煙が相変わらず立ち上っている。



「……わたしは両親が亡くなってから孤児院で育ちました。両親を救おうと力を使っていたそうです。その後にラームシルド公爵に引き取られました」


「すまない」


「いえ、大丈夫です。だからわたしも両親のことはあまり覚えていなくて」



知っているのは両親はヴィヴィアンを守って亡くなったということ。

母が何かを助けようとしていたことだけはよく覚えている。

気まずい空気に気付いてヴィヴィアンは慌てて話題を変えた。



「あの聞きたいことが、あるんですけどいいでしょうか?」


「……なんだ?」


「皆さんはいつも何をして過ごしているんですか?」



ヴィヴィアンはアンデッドになってから、森の小屋で暮らしていたが、お腹が空くことはあるけれどあまり眠らなくてもいいし疲れもしない。


(なんだか不思議な気分……)


どれだけ歩き回っても疲れを感じない。

あんなにも望んでいた休憩や睡眠がいらなくなったことに驚きを感じるとともに便利さも感じていた。

そして別の問題が現れる。


動物達の治療を終えて、小屋の中を整えた後に何もやることがなくて暇になってしまう。

しかしキーンとアーロンは忙しそうに動いているように見える。

もしかしたらヴィヴィアンも何かすることがあるではないかと思っていると……。



「特にはない」


「へ……?」


「暫くは好きに過ごせばいい」



サミュエルは淡々とそう言った。



「聖女も王子の婚約者の地位も全部捨てたんだ。好きなことをして自由に過ごしてみてはどうだ?」


「自由に……?」



それはこの一週間で自由を実感していた。

自由を喜べたのは最初だけで今まで忙しく生きていきたヴィヴィアンにとって、何をしていいかまったくわからない。

公爵令嬢として、聖女として、王太子の婚約者として目まぐるしい日々を過ごしてきた。


(ベルナデット様はいつも優雅にお茶や買い物をしていたけど……)


ヴィヴィアンは休憩がないほどに動き回っていた。

だが、いきなり好きに過ごしていいと言われても何をしてもいいのか思いつかないし、ソワソワしていて落ち着かない。

ヴィヴィアンが迷っているとアーロは立ち上がる。



「オレはもう一度、ヴィヴィアンちゃんが探しているマイケルとモネを探してくるよ」


「いいんですか!?」


「たぶんヴィヴィアンちゃんには、人の形をしたアンデッド達は近づけないだろう?」


「……!」


「ヴィヴィアンちゃんが城にいれば、アンデッド達がまた森を徘徊するかもしれないし」



アーロはそう言ってヘラリと笑った。

ヴィヴィアンはアーロの手を掴み、御礼を言おうとするが黒い煙が上がったことですぐに手を離す。

キーンがその様子を見て溜息を吐きながら「業務を行って参ります」と言って去っていく。



「業務……?」


「キーンには屋敷の管理。アーロは森の管理をしてもらっている」



なんだか衝撃なことの連続で気が抜けてしまった。

ヴィヴィアンは空っぽになったコップと皿をを片付けて辺りを見回した。

サミュエルはボーっとグラスに入った液体を眺めている。

こうして動かなければ彫刻のように美しい。

しかし近くで見ると彼の着ているシャツも所々、ほつれている。

すると赤と金のオッドアイと目があっう。

ゆっくりとサミュエルは立ち上がった。



「ヴィヴィアン、部屋に案内する」


「部屋……?」


「少々、綺麗にしなければな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る