第18話 ベルナデットside2
珍しい銀色の髪とガラス玉のようなエメラルドグリーンの瞳。
可愛らしい人形のような少女を見て、ベルナデットは息を飲んだ。
異質な力を持つ少女が現れたことにより、ベルナデットの人生はガラリと変わってしまう。
国王は一瞬にしてヴィヴィアンに夢中になった。
いや、執着していると言った方が正しいだろうか。
そして瞬く間に奪われた『ジェラールの婚約者』としての地位。
それには父と共にベルナデットは愕然とした。
しかしそれと同時に沸々と湧き上がる怒りにベルナデットの頭は支配されていく。
(──許せない許せないっ、許せない許せないッ!)
ベルナデットは血が滲むほどに唇を噛んだ。
すぐに父にどうにかしてもらうように頼むものの、グログラーム国王はジェラールと結婚するのはヴィヴィアンでなくてはならないと言った。
父は「どうにかする」と言ったが、国王の決定が簡単に覆らないこともベルナデットは知っている。
どうにもならない現実にベルナデットは苛立っていた。
それと同時に呑気で無垢なヴィヴィアンが恨めしい。
いつの間にかベルナデットの中ではヴィヴィアンへの怒りが膨れ上がっていく。
教会、王家、国民、貴族達からも必要とされて持て囃されるヴィヴィアンという存在。
そんな中、ジェラールの気持ちだけはベルナデットに向いていると気付いた。
絶望と怒りの中に光が差し込んだような気がした。
(次期王妃の座をあんな女に譲る気なんてないわ。そうでしょう、ベルナデット?)
心の中で問いかけるように自分に言った。
そしてジェラールの元に向かう。
まだまだヴィヴィアンは子供だ。
だけどベルナデットしか武器にできないこともある。
瞳に涙を浮かべながら胸を寄せてジェラールを抱きしめた。
「ジェラール殿下と、結婚できないなんて……わたくしっ」
「……ベルナデット」
「これから他の殿方に嫁ぐなんて、わたくし耐えられませんわ!ずっとジェラール殿下と一緒にいられると、そう思っていたのにっ!」
「ベルナデット、僕は……」
ベルナデットはハラハラと涙を流した。
もうひと押しだと泣き顔を見られないように背を向けてから両手で顔を覆う。
「ジェラール殿下のわたくしへの気持ちはその程度だったのですね」
「……っ、そんなことない!」
ジェラールは背後からベルナデットを抱きしめた。
(フフッ、馬鹿な男……)
ベルナデットの唇は綺麗に弧を描く。
思い通りに動くジェラールは、ベルナデットにとって最高の駒となる。
「本当は僕だってベルナデットを愛しているんだっ!」
「まぁ……ジェラール殿下、嬉しいですわ」
振り向いて彼を見上げるようにして目を合わせる。
腰に手を回してから、うっとりとして頬を撫でた。
(コイツとお父様をうまく使って、あの女を排除しましょう……まだチャンスはあるはずよ)
今までヴィヴィアンを嫌い、遠ざけていたが、近づいて監視する方法に切り替えた。
『聖女』などと呼ばれて調子に乗っている時には隠れて制裁を与えた。
少しのミスでも見逃さずに、ヴィヴィアンを毛嫌いしている令嬢達にさりげなく情報を伝えて追い詰めてもらう。
憂さ晴らしをしつつ、彼女の親友を演じていた。
幼い頃から社交界にいないヴィヴィアンは馬鹿で疑うということを知らないのだ。
一番最高だったのはジェラールを好きになったことだ。
しかしジェラールの気持ちはずっとベルナデットにある。
それを思うだけで笑いが止まらない。
(どいつもこいつも馬鹿ばっかり……利用するために近づいてんのよ。ばーか)
ベルナデットは父にもまだ自分が次期王妃の地位を諦めていないことを話して協力を求めた。
ラームシルド公爵に敵意を剥き出しにしている父は「もちろん協力する」と言った。
それからヴィヴィアンを追い詰めて追い詰めて、ベルナデットの視界から排除するために今まで何年も頑張ってきたのだ。
そして念願の今日が訪れた。
ジェラールを徐々に巻き込んで、父に公爵家……特に厄介なマイロンを抑え込んでもらい、国王が城にいない間に作戦は決行された。
ジェラールはベルナデットの操り人形同然だ。
ベルナデットは手を汚さずに、ヴィヴィアンは愛する婚約者に殺される。
これほど残酷で楽しいことは他にない。
ベルナデットは笑いを抑えるのに必死だった。
予想外だったのは聖女の力でまるでアンデッドのように蘇り、作戦を聞かれてしまったことくらいか。
(アンタなんか死の森がお似合いよ……!)
そしてヴィヴィアンを守ろうとしている目障りなマイケルやモネを一緒に排除できたことはかなり大きいだろう。
二人はヴィヴィアンと違い、勘がよくベルナデットを警戒していたからだ。
(わたくしのものを奪ったのが運の尽きよ……サヨナラ、お馬鹿さん)
ヴィヴィアンの顔を踏みつけた瞬間、ベルナデットは最高に満たされたのだ。
(ああ……すべてはわたくしの思い通りなの)
ベルナデットはジェラールに擦り寄りながら、にっこりと笑みを浮かべた。
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