第7話


ベルナデットに貴族としてのルールや嫌味を言われた時の反撃方法、失敗をカバーするための立ち振る舞いを色々と教えてもらいながら、仲を深めていった。

自然とベルナデットとジェラールの三人で過ごすことも増えていく。

むしろジェラールと二人きりになることはなくなり、そばには必ずベルナデットがいた。

違和感なくその状況を受け入れていたが、今ならばおかしいと気づける。


ベルナデットの父親であるスタンレー公爵は相変わらず、ジェラールとヴィヴィアンの結婚に反対していた。


スタンレー公爵は「我が娘こそが次期王妃として相応しい」と言って譲らないそうで顔を合わせる度にヴィヴィアンはベルナデットと比べられて嫌味を言われていた。

しかしヴィヴィアンはベルナデットと仲がいいため、なにも言い返せない。


しかしグログラーム国王の意思は固く、絶対にヴィヴィアンと結婚させると、それだけは譲らない。

板挟みのような状況にヴィヴィアンも戸惑いを隠せない。



「お父様は頭が固いのよ……ヴィヴィアン、ごめんなさいね」


「ベルナデット様のせいではないですから」


「だがスタンレー公爵の言い分もわかる気がするよ」



ジェラールの言葉にヴィヴィアンはチクリと胸が痛んだ。

ヴィヴィアンから見ても二人は特別な関係に見えた。

だからこそ不安になってしまうのかもしれない。



「わたくし達は幼馴染だし、ヴィヴィアンが現れるまではわたくしがジェラール殿下と結婚する予定だったから……仕方ないのよ」


「ベルナデットと結婚できるのを楽しみにしていたんだ」


「わたくしもそう思っていたのよ。懐かしいわねぇ」


「ああ、そうだね」


「……」



ヴィヴィアンには入れない二人の空気があり、こういう時は黙って聞き流すしかなかった。

そんな不安をかき消すように、ヴィヴィアンは周囲の期待に応えるために必死で忙しくしていた。

その間にも二人はヴィヴィアンに隠れて、ずっと愛を育んでいたのだろうか。


ベルナデットの言葉が度々、引っ掛かることがあった。

それに二十歳になるはずの彼女は婚約者がいなくても余裕でいることも今考えればおかしな話だ。

しかし二人を信頼していたヴィヴィアンは一切、疑うことすらしない。


ヴィヴィアンが十二歳の時にジェラールと婚約して四年、十六歳になってすぐに国王から結婚式を挙げるように言われていた。

しかしそれもラームシルド公爵とマイロンに止められてずっと保留になっていた。


そしてベルナデットからこの辺りに「大切なものを落としてしまった」と言われたヴィヴィアンはジェラールと三人で城の裏手にある死の森の近くにやってきた。

ベルナデットから「アンデッドが近寄らないヴィヴィアンにしか頼めない」「見てきて欲しい」と言われていたが、今考えればそれがヴィヴィアンを陥れるための罠だったのだろう。


グログラーム王国に面している死の森には、決して立ち入ってはいけないが、ヴィヴィアンがいればアンデッドは近寄ることはない。

だからこそヴィヴィアンはついて行ったのだ。


ヴィヴィアンがここに来る前までは、そこから溢れ出すアンデッド達から守るために、騎士達は命懸けで戦っていたらしい。

それもヴィヴィアンが城に出入りするようになってからは、アンデッドは遠のいていたはずだった。


ヴィヴィアンが足を止めた場所に人気はなく、肌寒い空気が流れている。

ベルナデットに何を落としたのか聞こうとした時だった。



『───ヴィヴィアン、危ないッ!』



そしてヴィヴィアンは二人に裏切りを知る。

ベルナデットに顔を踏まれた後に意識が遠のいたはずなのに、何故かぼんやりとした声が頭に響いていた。



『ほ、ほんとにいいのか?聖女様を……ヴィヴィアン様をこんなところに投げ捨てるなんて』


『ジェラール殿下の命令だ。逆らえないだろう!?』


『さっきの二人はもういなくなっちまった!この黒い泥がオレ達を飲み込もうとしてるんだ』


『それに早く死の森から出ないと俺達がアンデッドに襲われちまう!』


『だけど国王陛下に知らせた方がよかったんじゃないか!?こんなこと……ああ、ヴィヴィアン様。お許しください』



痛みは感じないが自分の体がゴミのように放り投げられるところを他人事のように感じていた。

体がゆっくりと泥の中に沈んでいき、呼吸が苦しくなっていく。


(ああ……本当に死んでしまったのね)


ヴィヴィアンは身を任せて死を受け入れる。

ショックも大きく、もう抵抗する力は残っていない。

二人は憎く思ったがそれよりも悲しみの方が優っていた。


(精一杯、頑張ったわ。頑張ったけどダメだった。お父様……マイロンお兄様。ごめんなさい)


大好きだった父もスタンレー公爵とあの二人の策略によって毒を盛られて苦しんでいるのだろうか。

兄のマイロンも追い詰められて苦しんでいたらと思うと、胸が痛い。


(正しい行いをしていたつもりだったのに……わたしは間違っていたのね)


あんなにも愛していると思っていたジェラールも、親友のように振る舞っていたベルナデットも、ヴィヴィアンを馬鹿にして邪険にしていた。

そしてヴィヴィアンが亡き後、二人は結婚して幸せに暮らすのだろうか。


(悔しい、苦しい、辛い……っ!)


叫び出したい気持ちのままヴィヴィアンの体はどこまでも堕ちていく。

燃えるような熱さを感じながらヴィヴィアンは目を閉じた。



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