Chapter3 森の広場へ行こう(1)
今日の昼食は、パンケーキだった。
三日に二回は出されるバーレンシア家定番のメニューである。
それに季節の果物やバターで炒めたカボチャや菜っ葉などが添えられる。
オレは一度の食事で、自分の頭と同じくらいのサイズのパンケーキを二枚食べる。
成長期だからかもっと食べようと思えば食べられそうだが、食べすぎは肥満の原因になるし、
ユリアの容姿なら、少しぽっちゃりしても
さて、そんな昼食を食べ終わったところで、オレはある目的のため、母親にお願いをする。
「お母さま、ご飯を食べ終わったので、うらの森にお散歩に行きたいです」
「あら、それじゃあ、アイラさん、一緒に連れていってくれるかしら?」
「かしこまりました」
昼食ではアイラさんもオレと母親と同じテーブルについて、一緒に食事をしている。
普通、貴族と平民は同じテーブルで食事はしないのが一般的なようだ。なので、名目上はテーブルマナーを教えるということで同席させているらしい。
両親は、あまり身分の違いにはこだわっておらず、むしろ一緒に食事をすることを望んでいる。
むしろ、アイラさんが遠慮してしまうことを気にしているようだった。
オレも前世の影響か、そういった身分というものは、いまいちピンときていない。
そもそも、ただの貧乏大学生だったオレにとって、上流階級の生活などは、それこそ漫画や小説の中の話である。
無理に貴族らしくしようとしても、下手な芝居のようなわざとらしい態度になるだけだろう。
お手本となるべき父親と母親でさえ、単なるちょっと小金持ちの若夫婦といった雰囲気である。
まあ、さすがに父親自身が気にしないと言っても、アイラさんのほうが父親と同じテーブルにつくわけにはいかないのか、朝食と夕食のときは壁際で立って控えているのだが。
「あの、お母さま。お散歩には、わたし一人で行きたいのです」
「まぁまぁ。ユリィちゃんは、アイラお姉さんがキライなの?」
「ちがいます! でも、わたしはもう三つになったので、お散歩くらい一人でできます」
一人で、という部分に力を入れて、むふぅと勢いよく頼み込む。
「うーん……、でもねぇ?」
正直なところ、オレも普通の三歳児を一人で散歩に行かせるのは無謀だと思う。
しかし、前世の記憶を持ち、こんなにしっかりと受け答えができる三歳児は、例外そのものだ。
前世で自分が三歳児だった頃の記憶はないが、子犬と変わらなかったんじゃないだろうか。
前世で見知った三歳児も、まさにそんな感じだったし。
あまりしっかりしたところを見せすぎると、オレが転生しているという秘密がバレてしまう危険もあったが、この程度なら早熟な子で済む範囲……だといいなぁ。
本当は早熟どころか、かなりの天才児、神童と呼ばれてもおかしくない。
しかし、両親ともに
「わたしは、いい子なので一人でお散歩できますよ?」
いまいち煮え切らない態度の母親に、必殺の《
「もちろん、ユリィちゃんはいい子に決まってるじゃない! わたしとあの人の子供なんだから!」
こうかは ばつぐんだ!
「わかったわ。わたしはユリィちゃんを信じる! でも、絶対に遠くまで行っちゃダメよ? それと、小川と井戸のそばには、絶対に近寄らないこと。危険ですからね? お水が飲みたくなったら、すぐに帰ってきておうちでお水を飲むのよ? 全部、約束できる?」
「はい、約束します。お母さま、ありがとう!」
母親から承諾の言葉を引き出したところで、前言を撤回されないように、ニコッとトドメの《
「ううっ……あなた、ユリィちゃんは、立派な大人になっちゃいました。三歳でもう親離れの時期が来るなんて、早すぎるわ……」
「えっと、奥様……別に、親離れというわけでは……」
うん、オレ(の身体)は、まだまだ子供ですよ? 親離れには早いかな、と思います。
母親は少しとぼけたところがあって、そんなところも可愛い人だと思う。血のつながった母親に持つ感想じゃないけど。
「お母さま! わたしは、立派に一人でお散歩してみせます!」
「ユリィちゃん、頑張ってね! わたしは草葉の陰から見守っているから!」
あえてノってみたけど、想定以上のノリの良さだ。
というか、母親よ、草葉の陰から見守るのは、死んだ人ですから。
あ、アイラさんがオレと母親の寸劇を見て、コメントに困る顔をしてら……。
◇◇◇
屋敷の裏庭は馬で駆け回れるくらいの広さがあり、馬小屋や小さなハーブ畑などが設けられている。
その裏庭から、例の小川へ通じる獣道のような細い道があった。
オレはその入り口に立ち、一度後ろを振り返って、左右を確認した。
……んー? 確率は半々ってところか。
何の確率かというと、アイラさんがオレを見守るためにこっそり後ろをついてきている確率だ。
隠れていても気配で人の位置がわかる……なんて能力はないため、あてずっぽうでしかないけど。
「まぁ、いっか。よし、行くぞ!」
と、勇んで森に入ってすぐ、木の根元で
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