第六話 風土病を解決しよう!!(2)

 翌朝、私は白いトカゲが相変わらずかごの中で眠り続けているのを確認すると、ローズにあとをお願いして自分の天幕を出る。

 ヒポポを再びスクロールから呼び出そうとしたところで、見たことのある人影が二つ。

 なぜか今日もアーリとロアの二人が天幕の外にいた。

 とりあえず先にヒポポを呼び出してしまう。

 二人はヒポポがスクロールから現れる間、じっと動かずにいた。雰囲気的には、どうもカバ型の錬成獣が興味深かったようだ。顔を隠す布のせいで表情がわからないのでなんとも言えないが。

「二人とも、おはよう。昨日は夜遅くまでありがとうね。体調は大丈夫?」

 とりあえず、当たり障りのなさそうな話題を振ってみる。

「おかげさまで。ポーションをありがとうございます。ロアがルスト師にもらったと言っておりました。一口で、完全に疲労感が消えました。ものすごい効果ですね」

 アーリの喜んだような声。その後ろでロアも無言でうなずいている、っぽい。顔を隠す布が前後に揺れたので。

 そこで会話が途切れる。どうしようかと思っていると、今度はアーリから話しかけてくる。

「今日もカリーン様からは、ルスト師についているように言われています。必要であれば領内を案内するようにと。どちらへ向かいますか」

「あー。じゃあとりあえず食品をまとめて保管しているところがあったら、そこへお願い」

「わかりました。こちらへ」

 歩きだすアーリ。そのあとを私とヒポポが続き、ロアは私たちの後ろからついてくる。

 どうにも会話する感じではない。そのまま黙々と進む。やがて見えてきたのは、斜め下に向けて掘られた下り坂。そしてその先は半地下のようになった食料保管庫だった。

「責任者を呼んできますね」

 アーリがそう言って近くの天幕へ。私は早速調査を始めることにする。

「ヒポポも何か見つけたら教えて」

 害意のある存在や術式に敏感なヒポポにもお願いしておく。

「ぶもっ」

 早速鼻を地面にこすり付けるようにしてヒポポも調査を始めてくれる。

 私はそれを見て、リュックサックから魔素測定用のダウジング・ペンデュラムと、《転写》のスクロールを取り出す。

「《展開》」

 両手をあけるため、私の後を追うように設定してスクロールを起動させると、ペンデュラム──先にかくすいにカットされた宝石のついた鎖──を左手から垂らす。

 ──ここ、形状的には何かのモンスターの巣穴だったものに手を加えて、食料保管庫にしたんだろうな。建材の貴重な辺境としては合理的だ。

 私は坂を少し下ると片膝をつき、ペンデュラムを地面より下の部分になる場所に近づけていく。なぜか、ついてくるロア。そのまま私から少し離れたところでペタペタと地面を触っている。

 ──あれは手伝ってくれているのか……? ま、まあいいや。それより集中集中。……地中の魔素が、濃いな。これだけ魔素が濃いと微生物は生きていけないから、殺菌は十分されているな。

 そのまま数ヶ所ペンデュラムで魔素を測定していくが、どこも高濃度の魔素が検出される。ただ、特に怪しいところはない。

 ──半地下に食料保管庫を作るのは冷暗所ってだけでなく、辺境だと魔素が濃くて微生物が死滅するって理由から、標準的な方法なんだよなー。ちゃんと魔素濃度は高いから、この地域特有の微生物が食料経由で体内に入ったとは考えにくい。うーん。あとは、元の巣穴の主のモンスター由来の何か、だけど……。

「ロア、ここって元々モンスターの巣だよね。何のモンスターだったか知ってる?」

 と、いつの間にか私の隣で、左右に動くペンデュラムの動きにあわせて、両膝を抱えて体を揺らしていたロアに聞いてみる。

「クマ」

「えっと、どんなクマだった、とか。特徴とか」

 首をかしげるロア。ちょうどそのとき、アーリが一人の壮年の男性を連れて戻ってくる。

「ルスト師、こちらが食料管理の責任者です」

貴方あなたがルスト師かっ! 弟を助けてくれてありがとう! アイツ、手足が麻痺して本当に落ち込んでいたんだ」

 私の両手をガシッとつかんで感謝を伝えてくるその男性。

「俺にできることなら何でも言ってくれ! 全力で協力する」

 どうやら食料管理の責任者の男性の弟というのは、昨日私が治療した一人のようだ。

「助かります。早速なのですが、食料保管庫の中を調査させてもらってもいいですか」

「そんなことでいいのか? よし、こっちだ!」

 私はその男性に連れられ、食料保管庫の中へと向かった。


 食料保管庫は結果的には外れだった。風土病の原因と思われるものは何も見つからなかったのだ。

 保管されている動物系モンスター由来のお肉も、植物系モンスター由来の果実や穀物も、どれもが適切に処理されていた。

 保管状態もよく、清潔に保たれた保管庫は、管理している人物の性格を表しているかのようだった。

 疑っていた、元の巣穴の主──ロアがクマと言っていたモンスター──の毒や残留物も見つからず。

 私は責任者の男性にお礼を伝えると保管庫をあとにする。

 うつむきながら坂を上り、地上に出る。

 こちらに気づいたヒポポが寄ってくる。

「ぶも……」

 首を軽く左右に振る、ヒポポ。

 どうやらヒポポの方でも何も見つけられなかった様子。

「ありがとうね、ヒポポ。次に行こうか」

 私はヒポポの耳をなでてねぎらう。

「次はどちらへ?」

 話しかけてくるアーリ。

「次はあそこへ行こう」

 私は飲み水が保管されているであろう野営地中央の大きなみずがめを指差した。

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