所長と隣村の冒険者(3)


   ◇◇◇


 コブメイ村での仕事はすぐに終わった。雑貨屋に大量の薬草を納品。それだけだ。

 仕事としてはあっさりしたものだけど、来た道を戻ると帰り着くのは夜遅くになってしまうので、今日はここで一泊することになっている。

 コブメイ村に冒険者ギルドはないが、宿屋はある。むしろ、あの規模でギルドがあるピーメイ村が特殊なのだ。

「じゃあ、宿屋に行きましょう! ギルドの人用の部屋があるので!」

「それは助かるな」

 小さな市場と広場、村にしては広めの道沿いにある宿屋兼酒場に入っていく。

 コブメイ村は山の中にあるにしては、結構規模が大きい。中心付近にはいくつか店があるし、市も立つという。ピーメイ村にとっては生命線みたいな存在だ。

 ピーメイ村冒険者ギルド御用達の宿は、古くて小さいが、落ち着いた感じの佇まいだった。一階が酒場で二階が宿になっている、昔からあるスタイルの宿だ。

 なんか冒険者時代を思い出すな、と考えながら中に入ると、いきなり声をかけられた。

「おお! イーファじゃねぇか! 元気そうだなぁ!」

 大声は、酒場の奥にある三人掛けのテーブルからだった。

 そこにいたのは小さいのと大きくてごついの、そしてその中間。そんな男性三人組だ。すぐ横に武器が置いてあるので、一目で冒険者とわかる。

 三人の中でも中間の男は冒険者の経験が長そうだ。体つきが一番しっかりしているし、雰囲気が明らかに違う。彼だけが一瞬、鋭い目で俺を観察した。こういうところでも油断しないタイプか。

「ゴウラさんたち、お久しぶりです」

 丁寧に頭を下げて挨拶するイーファ。どうやら知り合いらしい。

「知り合いか?」

「はい。この辺りで活動している冒険者さんで、お世話になっている方々です」

「そういうお前は何者だ? あぁ?」

 一番小さいのが聞いてきた。どうやら酒が入っているらしく、れつが怪しい。

「ピーメイ村に派遣された、ギルド職員のサズです。よろしくお願いします」

 イーファのように丁寧に礼をすると、ゴウラ以外の二人がじっと見てきた。

「なんだぁ、新人? あの田舎に必要あるのか?」

「イーファちゃんに迷惑かけるんじゃねぇぞ。もし、ヘマしたら、ただじゃおかねぇ」

「そんなことしません。先輩は王都の優秀なギルド職員だし、もともと高名な冒険者なんですよ!」

「ちょっとイーファさん……?」

 なんで相手を刺激するようなこと言うんだ。実際、俺は別に高名な冒険者じゃない。むしろかなり中途半端だ。本当に。

「高名だぁ? 聞いたことねぇぞ?」

「それに弱そうだしなぁ。いっちょここで試して……」

「二人とも、その辺にしとけ」

 酔っ払い二人が面倒くさい絡み方をし始めたところで、ゴウラがとがめた。

「すまねぇな。明日は魔物退治なんで気が立ってるんだ。びにおごろう」

 今からメシだろとばかりにゴウラが言ってきた。

「そこまでしてもらうわけには……」

「いや、ありがたくいただいておこう。これで、今のやりとりは無しということで?」

 遠慮するイーファを遮って言うと、ゴウラが「ほう」と表情を少し和らげた。

「なるほど。高名な冒険者だったということはあるな」

 すぐに給仕を呼んで注文し始めたゴウラに、そんなことを言われた。こういうのはその場で終わりにして禍根を残さないのが冒険者の流儀だ。一応、わかってる奴、と扱ってもらえたらしい。

「イーファが大げさに言っただけですよ。強引に現役復帰させられただけです」

「あの課長ならやりそうだ。苦労するだろうよ、何かあったら俺に言うといい」

 笑いながらそう言うが、目は全然違った。この人、本当にいい腕だぞ。なんでこんな田舎にいるんだ。

「困ったら相談させてもらいます。ところで、魔物退治っていうのは?」

 問いかけに、ゴウラは緩んだ表情を引き締めた。

「村から少し離れた山の果樹が植えてある辺りで目撃されてな。ゴブリンだ。もう居場所も特定した」

 すでに偵察済みか。ぬかりない。

 そんなことを話していると、食事が来た。それを見たゴウラが立ち上がる。

「お前ら、酒はそこまで、明日は早いから寝るぞ」

「へい、兄貴!」

「そこの新人、俺たちに迷惑かけんじゃねぇぞ!」

 小さいのが余計なことを言いつつ去っていくのを見て、俺たちは思わず苦笑する。

 三人組が去っていったのを見て、俺たちは改めて夕食をいただいた。ちなみにゴウラは本当に代金を出してくれていた。見た目はちょっといかつい感じだが、りちな男だ。面倒見も良いようだし、ギルド職員としては頼りになる冒険者に思える。

「ゴウラさん、ちょっと怖いけど良い人なんですよ。あの二人もお世話になってるんです。仕事がなくてあぶれてたのを冒険者にしてもらって……」

「ああ、そんな感じだな」

 ゴウラのお付き二人は大したことない。ほぼ素人だ。だが、彼は違う。最後まで酒を一滴も飲んだ形跡がなかった。明日の仕事に備えてだろう。仲間の酒量も見ていたはずだ。

 こういう心構えを持った上で、必要な判断を実行できる冒険者は強い。

 ただ、少し気になることもあった。

 食事をしながらイーファに聞く。

「あの人たちが受けた依頼について、調べられないか?」

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