次のレベルアップはカレーライス? 超楽しみです!

 予想通りとでも言おうか、ハイゼンとその護衛たちがそれぞれ一杯ずつそばを食べて出て行った後、ゆきつじそばは途端に暇になってしまった。

 明らかに異世界の街並みから浮いている辻そばの店舗。しかも場所が旧王城を囲む城壁の一角とあり、興味を引かれて遠巻きに店をのぞく者はちらほらといるのだが、しかしそういう者たちは店内に入ろうとしない。きっと、あまりに異質なもので警戒しているのだ。

 多少は期待していたところもあるが、しかし現実が見えないほど雪人も若くはない。

 このまま座して待っていたところでお客は集まらないだろう。

 これは表に出て呼び込みでもした方が良いかな、と雪人が考えていたところ、今度はアダマントが自身の若い部下たちを五人ばかり引き連れ、昼飯を食いに辻そばを訪れた。

 朝の時はまった仕事が立て込んでいるとかで来られなかったようだが、どうやら昼休憩に外食するくらいのことは許されるらしい。

 彼は連れて来た部下たちに、そばがどういう料理かを熱弁し、新メニューのわかめそばとほうれん草そばを両方ともたいらげ、満足そうに帰って行った。

 部下の若い騎士たちもそばのさに驚き、やはりそれぞれ二杯ほどたいらげた次第。若者の豪快な食いっぷりというのは、やはり見ていて気持ちの良いものである。それは地球だろうと異世界だろうと変わらないことのようだ。

 帰り際、彼らは「必ずまた来る。まだソバを知らない同僚たちにもツジソバのことを伝える」と言ってくれた。彼らの口コミ力に期待したいところだ。

 ともかく、この来客によって雪人のギフト『だい辻そば異世界店』はレベル三に成長した。

 そのステータス内容は次の通り。



 次のレベルアップは一〇〇人と、前回の一〇人から一気に必要人数が一〇倍に跳ね上がった訳だが、しかし追加されるメニューはカレーライスとそのセットメニュー。

 正直、カレーライスというのは異世界で戦う上でかなり心強いメニューだと、雪人はそう考えている。カレーこそは万国共通の美味。仮にそばが口に合わないと言う者があっても、カレーが口に合わないと言う者はいないはずだ。

 地球だろうと異世界だろうと、カレーの強烈な美味さにあらがえる者などいない。

 雪人はカレーライスという料理にそれだけの自信がある。これは名代辻そば異世界店にとって必ずや強力な武器となってくれる筈だ。

「むふふ……」

 次のレベルアップは来客一〇〇人と前途は多難。しかし次に追加されるメニューが最強の一角カレーライスとあって、雪人は一人ほくそ笑んでいた。

 昨日のかけそばで証明済みだが、店のメニューは雪人も食べることが出来るのだ。

 名代辻そばのカレーライスには特別な思い入れがある。何を隠そう、漫画家時代の雪人が最も食べていたのが、他ならぬカレーライスセットなのだ。

 カレーライスとかけそばがセットになったカレーライスセットは、雪人にとってつらい時期を支えてくれた、当時を象徴するような味。次はこのカレーライスセットがメニューに追加されるというのだから、楽しみでない訳がない。

 一人で気色の悪い笑みを浮かべながら、ちゅうぼうで食器を洗う雪人。時刻はそろそろ夕方に差しかかる頃だろうか、最後のコップを洗い終えたところで、不意に店の自動ドアが開いた。来客だ。

「あっ、いらっしゃいませ!」

 雪人が慌てて接客に出ると、はたして、そこに一人の若い女性がぼうぜんと立っていた。見た感じ、二〇代前半といったところか。かなりの美人だ。

 へきがん、長い金髪、白い肌。典型的な西洋人らしい、整った顔立ちの女性だが、革よろいと細身の剣で武装し、後ろに石弓を背負っている。

 明らかに騎士ではない。ダンジョンに潜って魔物と戦うことを生業なりわいとするダンジョン探索者というやつだろう。昨夜、簡単にではあるがハイゼンからそういう者たちがいると説明を受けた。

「あ、あああああああぁ………………」

 雪人のことを見るや、女性はいきなり目に涙をめて、言葉にもならない声をらし始める。

「え? あの……お客様?」

「あああッ! ああああぁ……ッ!!」

 困惑しきりの雪人が声をかけると、女性はついに声を上げてわんわんと泣き始めた。

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