名代辻そば異世界店、開業です!
ハイゼンたちの馬車に同乗させてもらうことおよそ半日。とっぷりと
ハイゼンによるとアルベイルの街は王都に次ぐ大都市とのこと。ただ、現代日本のように電気が普及している訳ではない、中世ヨーロッパ風の世界なので、夜の闇に沈んだ街の全景はおぼろげにしか見えなかった。
それでも相当大きな街だということだけは分かったので、それは
街に到着した
その巨大で
時間も遅かったので夕食は
何でも、雪人の
ちなみに今回、アダマントは同行していない。彼の役職は騎士団長、つまりはこのアルベイルにおける軍事部門のトップだ。旧王都を空けていた間に仕事が山ほど
ともかくハイゼンに連れ出されて雪人が案内された場所は、はたして、旧王城をぐるりと囲む、分厚い城壁の一角であった。
「あの……本当にここなんですか?」
と雪人が
「この壁の裏は何もない城の庭になっているのだが、ここならばどうだろうか?」
ハイゼンはそう
「いや、私のギフトは障害物とかも関係なく出せるんで、多分大丈夫だとは思うんですが、でも本当によろしいんですか?」
雪人の言う通り、ギフト『名代辻そば異世界店』は障害物があってもそれを無視して店舗を召喚することが可能だ。そして店舗を引っ込めれば、その場所は元通りに復元される。それは昨日のうちに試したから分かっている。
しかしだからといって、城を
どうにも雪人が考え込んでいると、ハイゼンが心配無用とばかりに肩を
「構わん構わん。気にせんでくれ。というか是非にもここに出してもらいたい。この場所ならば城から通い
昨日はいたくかけそばを気に入っていたハイゼンである、きっと、これからも
風光明媚な古城にチェーン店のそば屋という組み合わせはミスマッチ全開だろうし、雪人としてもちょっと罪悪感を覚えるのだが、他ならぬ城の
「大公様がここに出して良いと言われるのなら、私としては素直に出そうと思うのですが……」
「是非ともそうしてくれ。その方が私も城の者たちも来やすい」
「確認しますが、お城の方たちだけじゃなくて、一般の方たちも入れていいのですね?」
これは昨日の夜にもハイゼンたちと話し合ったことなのだが、雪人は基本、職業や立場の
雪人は確かにハイゼンの
昨日の時点ではハイゼンもそれで構わないと言ってくれたのだが、彼は約束を
「うむ、
「ありがとうございます。是非ともそうさせていただきます」
「よろしい。では、早速ナダイツジソバを出してはもらえんだろうか?」
ハイゼンは待ち切れないとばかりに雪人を
思いがけず
「それでは……名代辻そば異世界店!」
本当は心の中で唱えるだけでもいいのだが、ハイゼンたちにも分かり易いよう、あえて声に出してそう唱える雪人。
すると次の瞬間、ボフンと音を立てて名代辻そばの店舗が現れた。
昨日と同様、雪人が店長を任された
異世界の街並みに突如として現れた、現代日本のそばチェーン店。思っていた通り、随分とミスマッチな光景だが、これも時間が
願わくば、この街にとってお
「はっはっは! これは
ハイゼンが愉快そうに笑い声を上げ、護衛の騎士たちは圧倒された様子で「おお……」と声を
自分の能力ではあるのだが、雪人本人もギフトの力に目覚めたばかりで、店を召喚するのは今回で僅か二回目。やはり騎士たちと同じように、圧倒された様子で店舗を見つめていた。
「
ハイゼンにそう声をかけられ、雪人はハッと我に返り、彼に向き直る。
「え、ええ、構いませんが、しかし朝食は召し上がりましたよね?」
正直あまり
だが、雪人がそう指摘しても、
「ソバの美味を知った今となっては、あれではどうにも満足出来ん。実はいつもより朝食の量を少なくしておいたのだ」
言ってから、ハイゼンは「まあ、作ってくれた料理長には悪いのだがな」と付け加えて苦笑し、言葉を続ける。
「だから私の腹にはまだ若干の余裕がある。正直に申すとな、今日もあの美味なるソバが食べられるのではないかと期待していたのよ」
言いながら、再びカラカラと笑うハイゼン。まるで、お菓子を沢山食べたくてあまり食事に手を付けない子供のようだなと、雪人はそう思った。
だが、そこまで期待されてそばの一杯も出さないのでは、辻そば店員の名折れというもの。是非とも食べて行ってもらおうではないかと、雪人はそう意気込んだ。
「かしこまりました。そうだ、どうせなら昨日と同じものではなく、追加された新メニューを食べて行かれませんか?」
雪人がそう言うと、ハイゼンは驚きに目を見開く。
「何!? 新メニューとな!?」
「はい。ギフトのレベルが上がってメニューが増えたんです」
昨日、転生してから最初にステータスを確認した時点で、あと一人の来客があればギフトがレベルアップし、提供可能なメニューが増えると表示されていた。
あんな原っぱのド真ん中で客など来るものかと思っていたところへ、ハイゼンとアダマントが客として来たのだ。
結果、雪人のギフトはレベル二となり、新たに『わかめそば』と『ほうれん草そば』がメニューに追加された。
ちなみに今現在、雪人のギフトに関するステータスは次のようになっている。
どうやら、次に追加されるメニューは冷たいそばらしい。前回は温かいそばだったので、もしかすると温と冷が交互に追加されるのかもしれない。
ともかく、雪人の名代辻そば異世界店は、レベルアップしたことでまた一歩、本家名代辻そばに近付いたようだ。これでより異世界の人々を喜ばせることが出来るだろう。
ハイゼンも新メニューが追加されたと聞き、目を輝かせている。
「いやはや、新メニューとはまことに
店主である雪人に先んじて、意気揚々と店に向かって歩を進めるハイゼン。きっと、もう待ちきれないということだろう。
その様子に苦笑しながら、雪人も彼に続いて店に入った。
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