「桃太郎」とメドゥーサ

 芥川龍之介の作品に「桃太郎」という短編があり、次のような作品だったと思う。


 桃太郎は大きくなった時、爺さん婆さんの仕事の手伝いをするのがいやで、急に「鬼を征伐に行こう」と思いついた。婆さんに作らせたに「日本一のきび団子」で、サル、犬、キジを釣って、家来にすることができた。

 鬼ヶ島はヤシの木が生える絶海の孤島で、そこで鬼たちは平和に暮らしていた。親鬼は子供に、悪さをすると、日本に送られるよと言う。日本に住む人間ときたらおそろしく、嘘をついたり、焼きもちを焼いたり、人を殺したり、どろぼうもする。


 桃太郎と家来は鬼ヶ島に乗り込み、男も女も年寄も子供も、誰かれかまわずに殺した。酋長と数人が生き残り、桃太郎の前にひざまずいて言った。

「私どもが悪いので征伐されるのは当然だとは思いますが、私どもはいったいどんな無礼をしたのでしょうか、教えてください」

 すると、桃太郎は「三人の忠義な家来がいるからだ」と、全然わけのわからないことを言う。さらに訊こうとすると、「そんなうるさいことを言うのなら、切るぞ」と脅した。

 そして、桃太郎と家来は島の宝物を、人質にした鬼の子供に運ばせて持ち帰り、故郷へと凱旋したのだった。


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 これを読んだのはたぶん中学の頃で、それまでは「桃太郎は正義の味方」だと思っていたから、こういう考え方があるのだということを初めて知った。


 先日、メドゥーサのことを書きながら、メドゥーサだってそうだよね、と思った。

姉妹三人で幸せに暮らしていたのに、突然、女神アテナにより怪物にされてしまった。それは、メドゥーサがアテナの神殿でポセイドンと関係を持ったからだとか、美しい髪を自慢したからだとかいろいろ言われているが、こじつけではないだろうか。もし海の神ポセイドンとのことが本当なら、彼には、何の罰も与えていないというのはどうしたことか。

 とにかく、女神アテナに何か気にくわないことがあって、メドゥーサは怪物にされてしまったのだ。頭はおそろしい蛇で、その目で睨まれると、人は石になる化け物にされた。好きで人を石に変えているわけではない。そういう目にされたのだ。

 そこにオリュンパス・ファミリーのひとりペルセウスがやって来て、怪物メドゥーサを倒し、英雄になる。

 メドゥーサにしたら、たまったもんじゃない。メドゥーサの味方をしてくれる人もいたとは思けど、でも相手が神々なので、何にも言えない。


 このメドゥーサの立場というのは、鬼ヶ島の人達に似ている。

 桃太郎の思い付きで、鬼だからと征伐され、殺され、財産を取られた。鬼にしたら、納得しかねることだ。

 芥川は書いている。桃太郎が兄の子供を人質にして、財宝をのせた車を引かせて帰ったと。それから、その鬼の子供のことは書いていないが、こうは続けられないだろうか。今でも、おそろしい鬼の話が残っている。あれはその鬼の子孫が復讐しているのかもしれないね、なーんて。


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 二年前に、ニューヨークの官庁街にあるコレクト池公園に、ファイバーグラスで作られた二メートルほどの「メドゥーサの像」が置かれた。

 背後から見ると人物の性別はよくわからない。肩は男性っぽいが、臀部は女性らしい。それが、正面に回ると、胸があり、百パーセント女性だとわかる。その髪は蛇で、メドゥーサである。手には男の首、つまりペルセウスの首をぶらさげている。

メドゥーサがペルセウスの首を切ったのだ。


 そのメドゥーサの目は、裁判所を睨みつけている。(近況ノートにその写真掲載)

 当時、そこではハリウッドの大物映画プロデューサーのハーヴィ・ワインスタインの強姦及び性的暴行の裁判が行われていた。彼は「ミラマックス」という映画プロダクションを作り、数々の名作を世に出したが、十数年に及び、自社作品に出演する女性や女優志願者などにに、性的虐待を繰り返していた。

 メドゥーサの睨みのせいではないだろうが、裁判の結果、ワインスタインは有罪になり、現在は収監されている。

 

  


 
















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