ニジンスキーの絵
これはコロナが流行る前に書いたものです。
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先日、あるセレブのお招きを受けて、パシフィックハイツにあるマンション(大邸宅という意味)に行ってきました。
私はその億万長者ストリートと呼ばれる通りをよく散歩しており、この家の前もよく通りはしますが、邸内は見たことがありません。その家にはマチス、ドガ。モローなどの絵があるそうで、一度、中を見たいものだとは思っていました。
その夜は、もちろん、私だけが招待されたのではなく、50人くらいのゲストが招かれており、カクテルパーティとミニコンサートがあるそうです。
私も少しドレスアアップをして、どんなインテリアなのだろうかとうきうきと出かけたのでした。
玄関にはいると秘書やクロークが待っていて、中に通されました。
廊下を歩いて、奥に行く時、ちらりと横を見たら、
暗い部屋の壁に、ライトに浮き上がる一枚の絵、
目が吸い寄せられていきます。
彼って、もしかしてニジンスキー? (近況ノートに、この写真をアップしました)
まるで大好きなスターを見かけたファンの心境、どきどき、
すぐに駆け寄りたい気持ちを抑えて、まずは挨拶をした後、居間に行ってみました。
やはり、ニジンスキーでした。
私は昨年の暮れ、ニジンスキーにはまっていて、いろいろな本を読みあさり、ブログにも書きました。
これは、ニジンスキーが20歳の時にパリで踊った「レス・オリエンタルズ」の中のシャム人で、
フォーキンの振り付け。
ニジンスキーはダンスのレジェンドですが、実際にパリで踊ったのは3年ほど、
このあたりが、最高に美しい時でしたね。美しすぎて、哀しくなるわ。
ブログに書いていた時、この絵についてはネットでちらりと見て、フランスの肖像画家が描いたものだとは知ってはいました。でも、どの本にも、ニジンスキーがこの肖像画家のモデルになったという記事がなかったので、たぶん、これは後年、ニジンスキーの人気にあやかって描かれたものだと思い、スルーしていたのでした。
絵の右下には、確かに「ジャック=エミール・ブランシュ」というサインがありました。
ブランシュは(1861-1942)フランス人、フランスやイギリスの上流階級や著名人の肖像画家でした。
ロシア人の名プロデューサーのディアギレフがパリでこの「オリエンタルズ」を公演したのは1910年、
その時ニジンスキーは20歳で、ブランシュは49歳、
この絵の出来具合からして、
もしかしたら、ブランシュはニジンスキーに実際に会って、これを描いたのかもしれないと思いました。
女性秘書がやってきたので、私はこの絵について聞いてみました。
「彼はニジンスキー、バレエダンサーよ」
と言いました。そこのところは知っているのよね、わたし。
「この画家は実際に、ニジンスキーを前にして、これを描いたのでしょうか」
「いいえ。ロダンの写真家から写真をもらって、それをもとに描いたのよ」
と秘書が答えました。
この家にはたくさんの絵があるから、彼女だって全部について詳しく知っているわけではないでしょうし、彼女が正しい知識をもっているのかどうかもわかりません。
でも、写真を見て、想像で描いたとしたら、ちょっとがっかり。
このニジンスキーのミステリアスで妖しげな笑いと、指のポーズがとても魅力的。
背景の中国的な家具は、近づいて見ると緑色系で、
それはこの邸宅の内装や家具とよくマッチしています。
この家の居間は英国貴族風なのですが、ところどころに置かれたアンティーク家具や壁紙は中国風です。
人の家の内部をアップするのはマナー違反でしょうが、
これだけは大目に見てもらって、ちょっとだけ公開させてもらいます。
たとえば、こんな具合です。(☆残念ながら、写真は載せられません)
この内装に合わせて、この絵を購入したのかしらね。
そこが邸宅と美術館の違うところだわ。
記憶の糸をたぐっていくと、脳裏にある写真が現れました。
それはニジンスキーがシャム人に扮装している一連の写真で、ニジンスキー関係の本にはよく載っています。
それらを撮ったのは、ユジーン・ドゥレエだということも思い出しました。
ニジンスキーの踊っている動画はディアギレフの意向により一枚もないのですが、写真はたくさんあります。その中でも特に魅力的に撮れているのが、ユジーン・ドゥエレの撮ったものです。
ドウェレ(1868-1917)パリのロダンのスタジオの斜め向かいでカフェ・バーを経営しているアマチュア写真家でした。ロダンは作品の写真を撮らせるために、何人もの写真家を雇っていました。
ロダンはアマチュア写真家のドゥエレの才能に惚れて、彼を専属にしたのです。しかし、ふたりは1903年に決別し、ドウェレは自分の写真スタジオを始めました。
今でもドゥレエはアマチュア写真家ということになっていますが、スタートはそうでしたが、後にはプロの写真家でした。
その彼が画家のブランシェに頼まれて、ニジンスキーの写真を撮ったのだと思います。
それは1910年、ちょうど「レス・オリエンタルズ」を公演している時で、
このニジンスキーのポーズをしている場所は、ブランシュの庭と室内でした。
プランシェは当時、肖像画家として成功していたので、パリの裕福な人が多い十六区に、邸宅を構えていたのでした。
このニジンスキーの肖像画としてこの絵はとてもよくできているのに、世の中には知られてはいないですよね。
それはこれがプライベートコレクションで、世に知らされていないからでしょう。そういう絵画って、まだまだたくさんあるのでしょうね。
というわけで、セレブのすばらしい家で、不意に美しいニジンスキーと出会った魅惑の夜の話でした。
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