第35話私、坂田里香は瞳君を指揮者にしたくないんです。

坂田里香です。

もう・・・すごいジレンマです。

わかるでしょ?

瞳君を音楽部に誘ったのは私。

トランペットパートに誘って、隣に置きたいのも私。

(だって、瞳君、可愛いし、ドキドキするし)


でも・・・翔太先輩の怪我で、いきなり指揮者ですよ・・・

トランペットと指揮者って、位置が遠いんです。

(それ、嫌です、他の女に瞳君を見せたくないから)

(独占欲?当然です)

(瞳君は、私の可愛い彼氏ですよ、誰にもあげないよ)


瞳君の指揮ですか?

うん、すごく上手、吹きやすいです。

(それは認めます)

認めるけれど・・・やはり嫌です。

瞳君が、もしかして、指揮で人気が出るのも、心配だから。

(夜も眠れなくなるよ、それは)


練習が終わると、瞳君に一直線です。

(重い?言わせません、好きだから)

(愛している?うん、認めます)


「帰ろう」無理やり瞳君の腕を引きます。

(翔太先輩も、コンマスの聡美先輩も、笑っているけれど、気にしない)

途中から、腕も組んでしまいます。

(だって、私の可愛い彼氏さんだもの)

(誰にも文句は言わせません)


ずっと一緒に歩いて、瞳君の家に入りました。

美佳先生(瞳君ママ)が、ニコニコとお出迎えです。

「ありがとう、里香ちゃん」

「さあ、あがって!」

「今日は、小麦饅頭」


・・・マジに美味しそうな小麦饅頭。

女子高生のおなかには、ポンポン入りました。

(瞳君が離れていたストレス食いかも)


美佳先生は、手を叩いて喜んでくれました。

「まあ、いい食べっぷり」

「私も女子高生の頃は、そんな感じ」

「トランペットは、おなかが減って当たり前」

「いいなあ、里香ちゃん」


そこで、瞳君の「指揮者就任ニュース」を言いました。

(メチャ、上手でみんなが乗ったニュース)(足がつった事件も、残さず)


美佳先生は、瞳君を見ました。

(瞳君は、小麦饅頭が熱いので、舌を火傷したみたいで、苦い顔です)

(まだまだ、お子ちゃま瞳君です)


「瞳が指揮ねえ・・・」

「ゼンマイ仕掛けのおもちゃが動いた?」

「だから、足がつるの」

(その言い方は・・・可哀想・・・)


瞳君が、ムッと「白状」しました。

(何故、指揮が「上手か」、それでようやくわかった)


「榊原のおっさんが」(う・・・大指揮者を、おっさん呼びか?)

「オンラインの動画で教えてくれたから、その通りに振った」

「だから、実は、たいしたことじゃない」


美佳先生は、笑い出しました。

「そうか、そうじゃなければ、瞳が振るわけがないよ」

「榊原さんか、また面白半分に瞳をいじったのか」


その後は、瞳君と二人並んで、美佳先生のトランペットレッスンでした。

(かなり厳しい、基礎レッスンですよ)

(曲なんて吹かせてもらえない)


でも、私は、瞳君が近くにいるだけで、安心です。

今、望むのは、翔太先輩が指揮者に、一日でも早く戻ること。

瞳君も、そう言っています。

とにかく瞳君が指揮者は、遠くなるから、嫌なんです。

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