斜めの塔
応接間にいた国王はなぜか俺に向けて笑いかけてくる。
「ユーリ様、この国は素晴らしいですね。まるで肉にしか思えない畑に揺れてるように見える塔、街中は綺麗で住民達も生き生きとしている……」
グッと顔を近づけて目を輝かせながら言ってくる。
とはいえ、肉にしか思えない畑はそのまま肉だし、揺れてるように見える塔は本当に揺れている。
あとのものは俺がしたと言うよりはサーシャが頑張ってくれている結果とも言える。
「まだまだ色々と整えているところでお恥ずかしい限りです」
相手に弱みを見せないために謙遜をしてみせる。
「はははっ、ずいぶんとご謙遜を。あの荒れ果てた地をここまで成長させることができたのもユーリ様のお力があったからこそでしょう」
そういえば国王は元々ここがどういった場所だったのかを知っているんだったな。
それならば町の整備の仕方や綺麗に保つ方法などを聞かれるかもしれない。
いっそ作業員を派遣して収入を得る、と言う方法がとれるかもしれないな。
「それでユーリ様にお願いがあるのですが……」
来た!! やっぱりそういうことか。
俺は心の中でほくそ笑みながらも表情は一切変えずに答える。
「なんでございますか? 俺にできることでしたら力になりますが?」
「それは助かります。でしたら遠慮なく……」
治水工事か? 区画整理か? それとも外構工事か?
「あの斜めに建って揺れている塔。あの塔をぜひ我が国にも建てていただけないでしょうか?」
予想のはるか斜めに行く回答に思わず手に持っていたコップに力が入る。
そこまで力を育てていなかったために割れるほどはいかなかったものの、それでも軽く音がなる程度には力が入ってしまう。
今まで表情を変えなかった俺が見せた初めてのリアクションは国王の態度も変える。
「そ、そうですよね。あれほど特殊な建物はやはり機密なもの。そう簡単に教えていただけるものではないですよね……」
明らかにガッカリとした仕草をする国王。
むしろなんであんなものが欲しいのか理解に苦しむのだが。
「あの程度のものでよかったらいくらでもお作りしますよ? こちらから人を派遣いたしましょうか?」
「ほ、本当によろしいのか!? いやぁ、断られるとは思ったのですが、あの塔を一目見たときからその存在が忘れられなくてつい頼んでしまいました」
どこに気に入る要素があったのだろうか?
あれはだるま落としをした結果、偶然に生まれた産物で……。
もしかして、この国王、だるま落としがやりたいのか?
あの塔を欲しがるなんてそれ以外考えられない。
「では、早急に作業員の選定を行いますね」
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【作者からの告知】
書籍化の情報ですが
レーベルは講談社『Kラノベブックス』。
イラストレーターは『るろお』先生になります。
本日は出版社情報だけで、明日より公開許可を頂いているキャラデザを貼らせていただきます。
明日はユーリとフィー、エミリナになります。
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