国王の視察(3)
「あぁ、ここが噂の賢者の塔と聞いて、訪ねてみようと思ったのだが……」
「それならちょうど良かった。待っててくれ」
「……あ、あぁ?」
理由がわからずに頷くと男は手に持っていた巨大な金槌を塔に向けて振るっていた。
その瞬間にすごい衝撃が辺りを襲う。
「そ、そんなことをしてはこの塔が……」
思わず目を閉じてしまう国王だったが、塔が崩れた音は聞こえてこなかった。
ゆっくり目を開けるとそこには相変わらず不安定でいつ崩れてくるかわからない塔の姿があった。
「うそ……だろ? こんな不安定な塔なのに」
「そっか、知らないのか。この塔の主が以前塔を吹き飛ばしたことを……、いや、吹き飛ばされたのを根に持って……、じゃなくて反省して、絶対に壊されないように魔道具化したそうだ」
魔道具? この塔が? 一体何のために?
「それだとこの塔を攻撃しても何も起こらないんじゃないのか?」
「そうでもないさ。あいつは一切この塔を管理していないからダンジョン化してしまっているし、内部構造も複雑でわざわざ中を上っていくのは大変だろ? こうすれば塔が壊されないように魔道具としての能力が発動して……、それに驚いたあいつが飛び出してくる、と言うわけだ」
男のその言葉を聞き入っていると突然塔の最上階から何かが飛び出してくる。
それはそのまま落ちてきて、国王を踏み付けるように地上に降りる。
「どうしてこんなやり方しかできないのですか!?」
相変わらずヨレヨレのシャツ一枚しか着ていない賢者メルティ。
そんな彼女の姿を見ても動じることのない男はため息交じりに言う。
「お前が一切地上に降りてこないからだろ? しかもダンジョン化までさせて……」
「こ、こうでもしないと働かせようとするでしょ? 私は引きこもりたいんですよ」
「別に引きこもっているのはいいが、ちゃんと仕事はしてくれないと困る」
「ちゃ、ちゃんとしてますよ!? その証拠にほらっ」
賢者メルティは背中からスコップを取り出す。
「ちゃんとフリッツの武器も改造して置いたんですよ」
「……あのな。だからどうして俺の武器がスコップだと」
「えっ? 違うのですか!? ユーリ様から聞きましたよ。スコップでドラゴンを倒したって」
その言葉を聞き、ようやくこの男のことを思い出す。
確かユーリの配下で単騎でドラゴンを倒せる奴がいる、と。
その話しを聞き、ドラゴンスレイヤーの称号を与えたのだがそうだった、こんな男だった。
なぜか常にスコップを持ち歩いていたためにそちらのほうが印象深く顔はうろ覚えだったが、今改めてスコップを持ったことで確信ができた。
この男がドラゴンスレイヤーだ。
つまりはこの塔は今にも倒れそうにしながらもその実はドラゴンスレイヤー渾身の一撃すら耐えられる守りの要?
これをインラーク王国にも取り入れられないだろうか?
……よし、あとからユーリに聞いてみるか。
そんなことを胸に秘めながら言い争いが終わるまで踏まれ続けるのだった。
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