新たなトラブル

 色々なごたごたはあったもののようやく俺は平穏を手に入れることができたのだ。

 第二王子ノーリスによって約束された独立。

 絶対に大丈夫かと言われると不安は残る。

 国王の裏にいるのは俺の父であるバラン・ルーサウスなのだ。


 彼がそう簡単に俺の独立を認めるだろうか?


 確かに厄介者は早々に追い出したいと考えるであろう事は容易に想像がつく。

 しかし、そこに何かしらの条件を来そうでもある。


 俺の家が黒幕の家系であることを考えると……例えば王家への反逆を手伝えとか?


 特にこの辺境は隠れて暗殺するにはもってこいの場所である。

 最近は人通りも増えて、賑わいが増しているのだが、それでもインラーク王国の人間はまだまだ少ない。

 まだまだ街道は危険である。

 俺がここに来たときには大量のウルフに襲われたりしたのだから。


 安全にここまでたどり着けるのはたくさんの護衛をつけたものか高ランク冒険者たちくらいである。


 一応周囲の危険を排除するようにラムを走らせているが、どこまで排除できているのかはわからない上に、そのことがインラーク王国の内部にまで伝わっているかはわからない。


 そもそもここには変わり者も多く、理由なくここを尋ねる者たちも変わり者が多い。


 例えば……。

 例えばだけど、仮に俺がバランの立場だとすると、新しい貴族の家を興すわけだから並のものを寄越すだけで済むわけがない。


 本来ならば王都へ出向き、国王から直々に叙爵されるのが一般的である。

 しかし、国境を守る辺境地にいることを考えると呼び出しは困難。

 それならば国王の代わりに王族の誰かを使いに寄越すことが考えられる。


 普通に考えるなら一度俺と顔を合わせているノーリスが適任なのだが、彼は既に長女であるミランダの婚約者である。

 すでに味方として取り込んでいる彼をここで切る理由はない。


 そこまで考えると送られてくるのは別の王族。

 『こっそりと暗殺をしろ』と暗に伝えてくるはず。


 もちろんそんなことをしては破滅へ一直線である。

 ただ、裏でバランが手を引いているのだから俺が王族を暗殺しなくても別の誰かが俺の暗殺に見えるように殺す手はずとなっているはず。

 でも、やってきた王族を素直に受け入れないと俺の独立の目はない、ということになる。


 つまり俺がやるべきことは……、やってくる王族の身を守り、無事に独立すること!



「ユーリ様、また何か変なことを考えているの?」



 机で色々と考え事をしているとフィーが不安げに聞いてくる。



「別に変なことなんて考えてないぞ?」

「そういうユーリ様は大抵おかしな行動を取る前触れなの。山の爆破とかしたらダメなの!」

「俺がいつそんなことをするって言った?」

「いつかやりそうなの」

「……そういえば鉱石を掘る際に硬い岩盤があれば、爆弾で砕くって言ったな……。よし――」

「ダメなの!!」

「まだ何も言ってないぞ?」

「言いたいことはなんとなく想像がつくの。山を吹き飛ばしたらダメなの!」

「大丈夫だ。あとから俺の土魔法で元通りに……」

「それは元通りって言わないの!!」



 どうしてもフィーが引いてくれる気配はない。

 仕方ない、この件は後から隠れてするか。



「隠れてもやったらダメですよ!」



 なぜか俺の考えを読まれてしまう。

 そんなにわかりやすかっただろうか?


 でも、魔道具を作る上で鉱石も素材となりうる。

 いずれは必要となるだろう。

 怒られない方法を考えないと。



「そのことは置いておくか」

「……置いたらダメなの!」

「とりあえずフリッツを呼んできてくれないか?」

「フリッツさん?」

「あぁ、頼みたいことがあるんだ」

「わかったの。すぐに呼んでくるからその間に山を吹っ飛ばしたらダメなの」



 何度も念入りに注意をした後、フィーは部屋から出ていく。

 さて、待っている間に俺はちょっと鉱石を探すかな。


 意識を魔力に集中させて、土の中を探っていく。

 すると、このあたりは宝の山のようでいくつも鉱石が埋まっているであろう場所を探り当てることができた。

 ただ、それとは別にこの領地に向かってくる数人の気配に気づく。



 それなりに力を持っていそうな人が数人と……。



「やはり予想通り……か」



 ここからどう動くかで俺の将来が破滅かどうか決まるだろう。

 俺だけは……。


 そこでふと領内の皆のことが脳裏によぎる。



「そうだな。もう俺一人だけじゃないよな」



 俺がこの領地の皆を守る必要があるのだ。

 父、バランたちの好き勝手にはさせない。


 俺は固い決意の下、近づいてくる気配のほかに隠れている気配がないかを探るのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る