第三話 王国の姫

黒幕次男

 くそっ、ユーリめ!! 余計なことをしやがって!!



 黒幕一家の一人、次男のマルコは思いっきり机を叩き苛立ちを見せていた。


 その原因はもちろん三男のユーリの活躍である。


 辺境の地に移り住むと聞いたときは「自分か出世の道をそれるなんて馬鹿な奴」と嘲笑したものだ。


 父上が持っている辺境の地は禄に人口もいない、いやいや押しつけられたようなところである。

 都合の良い処分だったのだろう。


 それが蓋を開けるとどうだろうか?


 瞬く間に辺境の地を発展させ、周囲の国からも一目置かれるほどの大都市に変えてしまった。


 おそらくはユーリはこの辺境が発展する情報を事前に聞いていたのだろう。

 そうでないと一人の力であれだけの大都市にできるはずがない。



「くそっ、あのとき俺が言ってたら……」



 ユーリはあの辺境を発展させて功績で褒賞が与えられるらしい。

 なんでもこの国の姫と婚約を結ぶとかなんとか。


 この国の姫でユーリと近い年と考えると第三王女あたりだろうか?



 フロレンツィア・インラーク。

 ややおっとりとした性格をしているが、とても可愛らしい少女である。



 未だに婚約者がいなかったのが不思議なほど。

 おそらくは不穏な外国を睨んでどこかへ政略結婚させようとしていたのだろう。


 ただ、そこへ湧いて出たユーリである。

 おかしな事にあいつは他国の王族とも中がよく、積極的に他国の人間を領地に入れているらしい。


 ここと仲良くしているアピールをすれば他国の覚えも良くなる。という狙いがあるのはわかる。


 しかし、面白くないのもまた事実である。



「面白くない。何かあいつを失脚させる方法はないのか?」



 大出世のユーリと未だにただの次男の自分。

 どこで差が付いてしまったのか……。



「お前の気持ちもわかるが、余計な動きはするなよ?」



 ユーリの暗殺を目論むが、実行前に長男のノットに止められてしまう。



「俺もあまり気持ちの良いものじゃないが、父上に何か考えがあるらしい」

「しかし、父上のユーリの暗殺に失敗……」



 ここで自分が大きな声を出しすぎていることを反省して声を落とす。

 いくら少し失策が続いているとはいえ、この国を裏から支配する父、バランは怖いのだ。


 それはノットも同じだった。



「とにかくこの婚約は父からの提案らしい。だから下手に手を出すと……」

「そ、そうか。それなら仕方ないな。うん、俺はしばらく見ているとしよう」



 あっさり引き下がるマルコ。



「いや、下がる必要はないぞ。冷静に考えてみろ。別にすぐさま敵として行く必要はない。俺たちはユーリの兄だろう?」



 ノットがにやり微笑む。

 そこでマルコもおおよその事情を把握する。



「なるほどな。堂々と兄として会いに行けばいいのか。そして、もし万が一父上の作戦が失敗したときは……」

「あぁ、そのときにはユーリの信頼も確保できているだろう?」

「くくくっ、それはいい案だな。それじゃあ早速あの領地へ行く話を父上にしてくるぞ」

「そうだな。たまに手紙で近況報告くらいはくれよ。もし危機に陥ってるようなら助けを出せるように」

「助かるぞ」



 それから急いで父バランに報告へ行くマルコ。

 その様子をほくそ笑みながら眺めていたノット。



「あんな危険な場所に自分から行くなんてな。精々俺のために情報を落としてくれよ……」



 ただ、この二人の考えくらいわかっていたバランによって一蹴され、ユーリ暗殺計画は全くの無駄に終わるのだった。

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