帝都

 生死の境を彷徨って、なんとか戻ってくるとそこは見たこともない部屋のベッドの上だった。



「ここは……どこだ?」

「帝都にある宿屋なの」



 俺の側にはフィーが付いてくれていた。



「いったい何があったんだ? 確か第一位ファーストが突然襲ってきて全滅したんだったな?」

「俺が負けたんだぞ?」



 フィーの後ろをよく見ると壁にもたれ掛かるようにいたのは、第一位ファーストだった。



「いやいや、俺たちにお前を倒す力なんて……」



 そこで強烈な頭痛がする。

 まるで何かを忘れているような、思い出すのを拒絶しているような。



「お前が倒されたというならそれは間違い無いんだろうな。冗談を言うような奴じゃないし」

「無論だ。冗談は好かん」

「そこは良いとして、どうしてこんなところにいるんだ? 帰らないのか?」

「なっ!? 負けた以上、お前に付き従うと言ったじゃないか! 忘れたのか?」



 いつの間にかそんなとんでもない約束をしたようだ。第一位ファーストを仲間にするということは、今まで以上に黒幕である父バランから狙われるに他ならない。


 ただ、黒幕単独では倒すことができずに主人公たちが弱らせた際に横から入る形で討ち取るほどに手のつけようのない相手なのだ。



 ……仲間になると急に弱くなるタイプじゃないよな?



 一瞬そんなことが脳裏に浮かぶ。

 鑑定をしたくなる気持ちをここでは堪える。


 さすがに敵国のど真ん中で鑑定なんてしたら怪しまれるだろう。



「それよりこれからどうする? 皇帝に会うのか?」

「そのつもりだな。まずは謁見の許可を――」

「いらんな。俺がいれば」



 仮にも帝国の第一位だけある。

 まさかそんな事ができるなんて……。



「むぅ……。ルナもできる」



 隣でルナが頬を膨らませている。

 本来なら帝国にはルナのお願いで来ているわけだからな。



「そうだな。元々ルナが案内してくれるって言ってたんだもんな。ファーストには悪いが今回だけはルナに頼むかな」

「任せて」



 嬉しそうに笑みをこぼすルナ。

 なぜか当たり前のように俺の腕を取ってくる。


 すると、頬を膨らませたエルゥが反対の腕を取ってくる。



「えっと……これで歩くのか?」

「だめ、ですか?」



 一応エルゥとは婚約者予定というていだから、手を繋ぐのはおかしくないが、ルナはどうなのだろう?


 ルナの方を見る。

 小柄な体を見ているとサーシャみたいに妹のようにしか見えない。


 迷子にならないように繋いでいるだけにしか見えないな。


 思わず苦笑を浮かべる。



「それじゃあ早速行くか」



 二人に腕を組まれているところを無表情で見るファースト、という状況に耐えきれず早々に城へと向かうことにした。




       ◇ ◇ ◇




「これはルナ様にファースト様。そちらのお方は?」

「主人だ」

「婚約者?」

「どっちも違う」



 城を守る門兵にとんでもないことを言い放つ二人。

 すぐさま否定するが、門兵は二人のことを信じてしまったようだ。



「それはおめでとうございます。皇帝陛下にご報告ですか?」

「んっ、会える?」

「すぐに聞いて参ります」



 門の一人は兵は慌てて城の中へと入っていく。

 そしてすぐに戻ってくる。



「皇帝陛下がお会いになるそうです。こちらへ来てください」



 すぐさま俺たちは城の中へと案内される。

 謁見の間は荘厳な装飾がなされた建物に豪華な赤絨毯が敷かれ、その両脇を兵たちが固めている。


 そんな中、進んでいくと正面の玉座に座っている皇帝らしき男。

 やたら威圧ある表情で俺たちのことを睨んでいた。

 ……ように見えたのだが。



「帰った」

「よく帰ってきてくれた、ルナ。無事だったか? 怪我はないか? あれほどお供にファーストこいつを連れて行けといったのに」

「いらない」

「そうだよな。ルナの側にこんな無表情男を置いたら、邪魔だよな」



 ルナが話しかけた瞬間に、孫を相手にするかのように皇帝は頬を緩めていた。


 ある程度ルナの地位は帝国では高いと予想はしていたが、なんだか嫌な予感がしてくる。



「それで第一位おまえは我じゃなくてそやつに仕えるというのだな?」

「敗者はただ黙って従うのみだ。元々そういう約束であろう?」

「しかし、そちを失うと帝国の国力が大幅に下がるのも事実」



 皇帝はなぜか俺の方をジッと見てくる。



「そこでじゃ。お前、確かルーリとか言ったな?」

「いえ、ユーリと言います。皇帝陛下」



 さすがに他国の皇帝に無礼を働くわけにも行かない。

 真面目に答えると皇帝は指を鳴らしていた。



「ユーリか。そち、この我に使える気はないか? 第一位ファースト第三位パペッター、更には第六位ノーソード第九位ナイトを倒したそちには、第一位の上の称号すら用意している。どうだ?」

「申し訳ありませんが――」

「ユーリは独立するから」

「ほう、なるほど。それで獣王国の姫か」



 もしかすると、いざという時に獣王国に逃げ込む算段をつけていることまで読まれているのだろうか?

 ただ、隠そうとしているわけではないので、俺は頷いてみせる。



「すでに先約があるのだから正妻の地位は仕方ない。王女となれば地位的にも十分だろうしな。しかし、それでは我も面白くない。こちらからは一位と三位と六位と九位を差し出すわけだからな」



 いやいや、その面々は勝手に付いてきてるんだが?



「そうじゃ。独立をするのに妻が一人では甲斐性がないと思われるだろう。ルナはどうだ? 元々その報告のために帰ってきたのだろう?」

「んっ、決定事項」



 勝手に決めるな。

 ただ、帝国との繋がりも今の俺からしたらかなり大きいものである。

 断って帝国と全面戦争になることの方が被害が大きいだろう。



「……私が独立をしてから、そのときまだルナがその気なら、ってことでどうでしょうか?」



 人の気持ちは移ろいやすいもの。

 特にルナの場合は出会ってすぐなのだから、ポッと違う人のことを好きになってもおかしくない。


 結果的に俺は結論を先延ばしにするという手をとることに。



「わかった。確かに一国から独立するとなるとかなりの力が必要になろう。我もいくらでも手を貸すから存分に頼ると良い」



 いや、それだとまるで俺がインラーク王国相手に戦争を起こすみたいじゃないか。

 俺は平和的に過ごしたいだけなんだが?

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