会食

 皇帝との話が終わるとなぜかそのまま食堂へと通されることとなった。


 本音としてはすぐさま宿へと戻りたかった。

 どこの国の国王も人の話を聞かずに俺が独立することを前提に自分の娘を押しつけようとしてくる。


 獣王国ならばインラーク王国と協力したいというのはよくわかる。国力の差があるのだから。

 でも帝国の場合はむしろ帝国の方が国力がある。

 一桁ナインスによる圧倒的な力によるところも大きいので、その第一位が俺に協力するといっているから仕方なく、なのかもしれない。


 あとは俺の領地の位置だろう。


 資材が乏しいアルフの街ではあるが、四カ国と接する重要な位置にはある。


 俺自身に好意を持たれていれば通商がしやすくなる。

 そんな思惑もあるのかもしれない。


 俺自身も一応ルーサウス公爵の子息。

 立場で考えると同じ公爵の娘か王族の娘になるのも仕方ないのかもしれないが――。


 右にはルナが座り、左にはエルゥが座り、向かいにはフィーが座っている三竦みの状況。

 それを皇帝夫妻が微笑みながら見ている状況で料理の味がわかるはずもない。



「ルナもまんざらではなさそうで良かったですね」



 皇后が優しげな目つきで微笑んでいた。



「んっ、頑張った」

「いやいや、俺に拒否権すら与えられてなかっただろ?」



 思わずルナに小声で言う。

 お礼をするからと帝国に来たらそのまま婚約話だもんな。

 そもそもこういう場を設けられた、ということはルナの地位は――。



「我が孫もそなたのように第一位ファーストすら倒してしまう傑物に付き添えて幸せであろう」

「当然」

「いえ、私一人で倒したわけじゃ……」

「強い仲間を引き連れることができるのも、そなたの力であろう?」

「そう言われたらそうなんでしょうが……」



 結局言い負かされて、ルナとの婚約予定はそのままとなってしまうのだった。




       ◇ ◇ ◇




 食事を終えると改めて皇帝が話しかけてくる。



「そなたの力を見込んで頼みたいことがあるのだがいいだろうか? 元々はこの件もあって力のあるものを探していたんだ」



 その言葉を聞いて俺は原作のとあるイベントを思い出していた。

 第一位ファーストが黒幕に倒されたあと、帝国が衰退していく原因となった一因。


 原作後のやり込み要素の一つである、ある意味ラスボス以上の力を持つ存在が帝国のとある場所に封印されているのだ。


 その昔、初代皇帝が当初の一桁ナインスたちと共に挑み、封印することがやっとだった相手。

 一桁ナインスができるきっかけとなり、帝国が実力至上主義となった原因。



 旧魔王が勇者にやられた強い恨みからアンデット化し当初の勇者パーティーを狙っている、というものだったはず。


 関係ないものからすれば良い迷惑でしかない。


 ただ原作が始まっていない今、封印が解かれるのはまだだいぶ先のはず。



「実はこの帝国には封印されたとある魔物が存在するんだ」

「や、やっぱりアンデットが……」

「アンデット? なんのことだ? 封印されているのはドラゴンだ」

「えっ?」



 そんなイベントは初めて聞いた。

 というか一体帝国にはどれだけの魔物が封印されているのだろうか?



「どうしてそれを私たちに?」

「いや、そなたの仲間にはドラゴンスレイヤーがいるのだろう? しかも誤報だったとはいえノーブルバーグではドラゴン討伐に協力してくれた話も聞く。まさにこれは神が使わしたとしか思えないタイミングだ」



 なんだ、ドラゴンか。

 大きめの魔石もちょうど欲しいしな。



「わかりました。倒せそうか調べてみます」

「うむ、頼んだ。今日も遅い。詳しい話は明日にでもするとしよう」

「あなた、あの話もしないと」

「そうだったな」



 まだ何か話があるようだった。

 しかもドラゴンよりも深刻そうな表情を見せてくる。


 今度こそ元魔王の話だろうか?


 深刻そうな表情を見せてくる皇帝に俺も固唾を飲む。



「この城もノーブルバーグの傭兵ギルドのように設備を強化してくれないか?」

「えっ?」



 そういえば掃除と称してあれこれ改造していたな。それがどこかから皇帝にまで漏れてしまったのだろう。



「ユーリ様、一体なんのことなの?」



 向かいに座っているフィーの笑顔が怖い。



「い、いや、俺もなんのことだかさっぱりで……」

「地下に温泉を作ったり、不思議なトイレを作ったり、外が寒くても快適な部屋になる箱を作ったり、といった報告を受けておるぞ」



 よ、余計なことを……。



 フィーの目からハイライトが消えたように見える。



「ま、待て。話せばわかる。ほらっ、俺はほとんどフィーと行動してただろ? お前の知らないことを俺がしてるはずないじゃないか」

「……一日だけ離れた日があったの。フリッツに任せた日なの」

「そ、それならフリッツが原因だな。よし、フリッツに正座を――」

「二人とも正座するの!」

「「は、はいっ!」」



 なぜか食堂で俺とフリッツは正座をさせられる。すると、エミリナがフィーに何か耳打ちしていた。



「うんうん、私の手料理を食べさせたら反省を促せる……?」



 そんなフィーの独り言が聞こえた瞬間に俺たちは必死に床に頭を擦り付けるのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――

★10,000突破!!

たくさんの評価、ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る