切り札

『実はフィーの料理、あいつは好きなんだ。おそらく食わせることができたら隙を作ることができる。協力してくれないか?』



 ユーリからそのようにお願いされたフィーは何も疑うことなく以前作った物体Xりょうりを準備していた。


 ちょっと考えたらいくら好きでも戦闘中に食事を取る事なんて早々ないとわかるはずなのだが。


 そして、ユーリの指示通りに気配を隠して潜んでいた。


 すると本当に指示された場所に第一位ファーストが拘束されたのだ。

 フィーが隠れていることには気づいた様子はない。


 だからフィーはそのまま第一位ファーストに料理を食べさせてあげていた。

 ただ、その様子がおかしい。


 一瞬驚いた表情をみせたがすぐに不敵な笑みを浮かべていた。



「毒か。しかしこの俺には状態異常の類いは効かな……。がはっ」



 すぐさま第一位ファーストは青ざめていた。

 拘束されているために膝をつくことすらままならず、口に入ったものを吐き出したいにも関わらず、ユーリの土魔法で口から出すことすら許されず、結果的に飲み込むしかなかった。




       ◇ ◆ ◇




 ラムですら一撃で屠った最強の切り札を持ってしても第一位ファーストは持ちこたえていた。

 これでもまともに戦えるのならば俺たちには為す術がないということになる。



「いったい何をした……」



 なんとか拘束を振りほどいた第一位ファーストだが膝をつき満身創痍であった。


 ただかなりのダメージを与えることができたようだ。



「それを俺が教えると思うか? 対第一位ファースト用最終兵器だぞ?」

「なるほど……、本当に油断のできないやつだな……」



 楽しそうに第一位ファーストは微笑むと剣をしまっていた。



「俺の負けだ。ひと思いに殺るといい」

「いや、お前をやる理由が俺にはない。それよりもここを通してくれると言うことで良いんだな?」

「もちろんだ。負けた俺には何も言う権利はない。全てお前に付き従おう」



 第一位ファーストはそういうと当たり前のように俺たちの側に付き添うこととなった。



 なんだろう。帝国の人間は負けた相手の仲間にならないといけないルールでもあるのだろうか?



 そうなると今まで倒した奴らも……。



 二桁とか名乗ってた人間もいた気がするし、知らない間に倒してることも度々ある。

 いきなり人を襲うような相手は問題が起こる可能性があるからあまり増えてほしくはない。


 でも、これで帝国へ向かうための最大の関門を突破できたことになる。


 再び出発しようと思ったのだが、なぜかフィーが動かない。



「フィー、どうかしたのか?」

「……だったの」

「んっ、何か言ったか?」

「フィーの料理が好き、というのは嘘だったの……」

「あっ……」



 第一位ファーストに対抗するためとはいえ、フィーを騙すような真似をしてしまったことを申し訳なく思えてくる。



「あ、あれはその、なんだ。ものは方言というかなんというか……」

「わかってるの。フィーの料理はラムですら食べられないものだったの……」

「ご飯? 食べるメェ」



 『料理』という言葉に釣られてラムが涎を垂らしながらやってくる。

 フィーの料理でダウンしていたことを忘れたのだろうか?



「なんだ、食うのか? まだ余ってたんじゃないか?」

「……あるの」

「わーいメェ。いただくメェ」



 フィーが残っていた物体Xを取り出すと、ラムは勢いよく食べ始める。



「少し刺激的だけど、とっても美味しいメェ」

「俺はあんなものを食わされたのか……」



 第一位ファーストは青ざめた様子でラムが食事をとっている様子を眺めていた。



「ラム……、ありがとうなの。これからももっともっと美味しくなるように頑張るの」

「えっ!?」



 ラムのおかげでやる気を見せてくれるフィーだが、もしかしてその時に作った料理って俺たちも食わされるのだろうか?


 そんな不安に襲われる。



「ユーリ様もラムも白い人もフィーの料理、好きなの」



 フィーが断言して言ってくる。



「えっ? 俺もか?」



 なぜか巻き込まれた第一位ファーストが青ざめた様子で聞き返す。



お前一人、逃すわけないだろそうだな。ファーストはフィーの料理、好きだもんな



 第一位ファーストには俺の心の声がわかるようにしながら笑みを見せる。



「くっ、これも強くなるための試練か……」



 第一位ファーストは黙って俯いていた。

 強さは一切関係ない気もするが……。



「そうだ、エミリナやフリッツたちも……」

「すまんな。俺はちょっと刺激の強い料理は苦手なんだ」

「私も教会で食べられるものが決まっておりまして……」

「臭いがキツイのはダメなんです……」



 みんなに断られてしまい、結局フィーの料理に付き合うのは俺とファーストとラム、ということになってしまった。



「美味しいメェ。……ばたっ」



 物体Xを食べていたはずのラムがそのまま倒れる。



「少し残ってしまったの。ユーリ様も食べるといいの」



 後ろに鬼が見える笑みを浮かべながらゆっくりフィーが近づいてくる。



「ま、待て。話し合えばわか……。むぐっ」



 口の中に物体Xが放り込まれる。

 その瞬間に目が回り、心地よい浮遊感に襲われるのだった――。

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